« 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 弐 陳寿論 1/2 再掲 | トップページ | 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 参 通詞論 1/2 再掲 »

2023年4月29日 (土)

新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 参 通詞論 2/2 再掲

 新人物文庫 .KADOKAWA/中経出版 Kindle版
 私の見立て ★☆☆☆☆ 誤解と認識不足の露呈  2020/08/05 2023/04/29

〇文書論議
 文書交換は高度な筆談であるから、ここに書かれているようなお粗末な手配りはあり得ない。まして、国家の大事に無教養な野良通詞を雇うのは、失笑ものである。鞍作福利は中国古典に精通していたと同時に、その高度な概念をヤマト言葉に噛み砕いていたものと思われる。中国人と会話するためには、鞍作氏が創造したヤマト言葉によって思考できる人材が求められたのである。何しろ、ヤマトの側には、後世律令で確立するような国家規律の言葉はなかったから、その大半は、漢語で埋められていたはずである。

〇漢字現地化禁制
 因みに、漢字を自国風に発音して文章、会話を構築することは、文明の根幹に反するので禁じられていたのである。かな文字は、中国との交通が疎遠だったため見過ごされたのであり、至近の百済と新羅は、中国の規律に厳格に拘束されていたので、漢語の現地化などできなかったのである。
 今日でも、政治、経済などの高度な談義で、漢語や漢語風現代造語をヤマト言葉に置き換えたら、意思疎通できないのである。

〇児戯敷衍の愚
 ちなみに、「伝言ゲーム」なる、低級で陳腐な比喩が登場するが、事は、子供の遊び事ではないのである。正確な意思伝達の保証には、対面筆談による文意確認であり、つまり、都度伝達内容を検証し是正するのである。

 このような、児戯に属する低劣な比喩を持ち出して、古代人の叡知を見くびるのは、自身の無知を高言しているものである。

〇外世界の文化、文明
 史記大宛伝、漢書西域伝の漢武帝期の西域踏査記録で知られているが、西域のさらに西の果てに威勢を誇った「安息国」は、皮革に横書きで文字を書き付ける高度な文書制度を有し、数千里に広がる広大な国内に宿駅を備えた街道を隈無く整備運用し、常時、官制文書使を往来させ、漢使の東部国境到来時は、西境王都に急報し、想定日数内に国王から応対許可の指示が届いたと報告されている。

 縦書き漢字文書ではないが、巨大国家が、文書行政で秩序正しく運営されていたと知られている。其国は、銀銅貨が有り、計算集計技術が確立し、「法と秩序」も健在で、前世、女性一人で安全に長旅できたとされている。
 ただし、これは中原外の風聞であり、中国に皮革紙や横書筆記が伝わったわけではない。また、中国の基準では、先哲の古典書を読解していないものは、無知のものなのである。

〇まとめ
 文化、文明は、文字の上に構築される。単なる民族風習ではない。

〇魚豢の嘆き
 魏書第三十巻巻末に裴松之が補追した魏略「西戎伝」全文で魚豢の著作が伝えられているが、巻末で、魚豢のような知識人でも知りうる範囲の限られた池の鯉で外界を知り得ないと達観したが、現代人は知識を得るのに池を出る必要はないから、その場で認識を広め、かつ、深めて欲しいものである。

〇教訓
 古代史談義を現代人の言葉と概念で進めるのは無謀である。同時代概念を摂取し、内なる言葉と概念を整えた上で古代史料の言葉を取り込むべきである。氏の解説は、言葉と概念の貧困により意図不明の絵解きに終わっている。
 更なる境地に至るためには、情報源の「貧困」を理解いただいた上で、止まる木を選んで研鑽いただきたいものである。

                                以上

« 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 弐 陳寿論 1/2 再掲 | トップページ | 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 参 通詞論 1/2 再掲 »

倭人伝随想」カテゴリの記事

新・私の本棚」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 弐 陳寿論 1/2 再掲 | トップページ | 新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」 参 通詞論 1/2 再掲 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2025年3月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は、広大な歴史学・考古学・民俗学研究機関です。「魏志倭人伝」および関連資料限定です。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
  • NHK歴史番組批判
    近年、偏向が目だつ「公共放送」古代史番組の論理的な批判です。
無料ブログはココログ