« 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 3/7 | トップページ | 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 1/7 総括 »

2023年4月 8日 (土)

新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 2/7

 初稿 2019/07/14 改訂 2020/10/19, 2021/12/27 補充 2022/09/26 2022/11/10 2023/04/08

*歩制談義~余談
 同様に、全国各地の土地台帳に書き込まれていた「歩」(ぶ)は、個別の土地に基づく「徴税」の根拠であり、土地台帳は、まずは、戸主に対して付与される「地券」証書のもとであり、全国くまなく、厖大な戸数ごとに作成されていたから、大規模な再測量、再割り当てでもしない限り、既存土地台帳の変更のしようがなかったのです。もちろん、そんなことをすれば、折角長年維持していた徴税制度が崩壊して、徴税ができなくなる可能性があるのです。(つまり、国家として破産するのです)つまり、太古以来、帝国経済の根幹は、個別の土地から生じる「税」を、漏れなく収集することにあり、根幹たる土地台帳を改編するような制度変更は、不可能だったのです。

 税収を増やしたかったら、税率を変えるのが定番であり、それ以外にも、各戸戸籍を元に、成人男子、つまり、口数に課税する「人頭税」の増税で補填すれば良いのです。もちろん、増税は、広く不評を買うので、暴動鎮圧などに関し、余程の決意が必要ですが、各戸の土地部数を水増しするのも、端的に言えば増税であり、タダでは済まないのです。

 増収手段としては、塩鉄専売の強化など種々の手口はあり、「歩」を改定して土地税制の根幹を破壊するような「無意味な」徒労に取り組む事はなかったのです。もちろん、当時の算数教育の普及状態では、全国各地の土地台帳の歩数を、定率で水増しするのは、延々と掛け算して、土地台帳を書き換える必要があり、それは到底不可能です。
 あくまでも仮定の論義ですが、そのような難事と承知の上で、「歩」の調整を行うとしても、当時、高級計算官吏にも容易でなかった「乗除」計算を伴うため、全国各地で厖大な計算実務が発生するのですから、もし、そのような国家的大事業を実施したとすれば、皇帝命令が必須、不可欠であり、完了後は、各地から報告が上程されて、総括されて記録に留められたはずです。
 つまり、明確かつ厖大な公的記録が残るのですから、当代正史魏志、晋書に、何ら明確な記録がないということは、そのような国家事業は、一切行われなかったことを歴然と証しているのです。まして、周代以来の制度を連綿と述べたと読み取れる晋書「地理志」に制度変更の記事がないということは、あり得ないのです。

*歩制改革の不可能性~余談
 「なかったことがなかった」というのを実証するのは、見かけ上至難と見えるでしょうが、当然存在すべき記録が存在しないというのは、極めて強靱な状況証拠であり、これを論破するには、「あった」ことを証する断然、確固たる証拠を提出する義務が伴うのです。なにしろ、「強靱な状況証拠」は、もっとも強固な証拠なのです。

 このあたり、「計測」に関する専門的な学問分野で、既に議論されているのでしょうが、古代史里制論義で参照されているのを見かけないので、素人がしゃしゃり出て、えらそうな口ぶりで講釈を垂れている次第です。
 つまり、魏晋朝の一時期に里制が変更となり、一「里」が、六倍程度拡張/縮小して変更されたという「仮説」は、根本的に否定されるべきものなのです。
 因みに、口ぶりがえらそうなのは、野次馬の冷やかしの混同されないために、殊更身繕いしているのであり、別に、学位も役職もないので、このような町外れで論じている次第です。当然、排他的な断言などではありません。

*「水行」の意義
 「唐六典」で言う「水行」は、『海岸を発する「渡海」』を「倭人伝」に限定的に採用した「倭人伝」語法の「水行」と異なり、古代・中世中国語の標準定義通り「河川航行」であり、翻訳には厳密な注意が必要です。当然、「倭人伝」に書かれている「道里」は、全国制度を示すものではないのです。
 ついでながら、太古の「禹本紀」に書かれている「水行」は、単に、「禹后」が、河川の移動手段として利用したというだけであり、後世の「水行」とは全く関係無いのです。素人受けするかも知れませんが、同じ言葉でも、時代と環境が違えば、意味も意義も、まるで違うので、引き合いに出すのはとんだ恥かきと考えるべきなのです。

 東夷伝末尾の「倭人伝」に於いて、帯方郡の管轄地域で、独特の「里」と解釈される記事があっても、当然、それは、魏の全国制度を書き換える効力を有しないのであり、むしろ、帯方郡独特の事情で、そのような「里」で道里記事が書かれた公文書が残されていたため、陳寿「魏志」倭人伝、ないしは、先行の魚豢「魏略」が「倭人伝」独特の「里」を宣言し、「倭人伝」独特の道里記事を書いたと見るのが順当でしょう。
 絶対とは言いませんが、落ち着いて、よくよく考えていただければ、これが、諸説の中で、もっとも筋の通った解釈ではないかと自負するものです。いや、わざわざこうして記事を書き上げた以上、当人としては、そうした自負を当然確立しているのですが、世の中には、反発心を論争の主食としている方も少なくないので、ちょっとだけ外しているのです。くわばら、くわばら。

 そして、陳寿が慎重に書き上げた「倭人伝」「道里記事」が、筋の通ったものであったことから、「読者」は非難を浴びせていないのです。それに対して、後世の東夷が異議を浴びせるのは、傲岸不遜、不勉強ものの愚行です。

 「唐六典」の規定は、基本的に大河の上下(溯/沿流)で、「河」は河水、黄河、「江」は江水、長江(揚子江)です。「余水」は、それ以外の淮河などの「中小」河川でしょうが、「水」と銘記された以上は、水量はほぼ通年してタップリして一定で、喫水の深い、積載量の厖大な川舟も航行できるのです。
 規定外河川は、当然、規定外なので、全て不明ですが、要するに、規定するに足る輸送量が存在しないはしたで、規定におよばなかったのです。唐代、朝鮮半島は唐の領域外なので、当然、「唐六典」の適用外ですから、漢江や洛東江の事情がどうであったか、知るすべはないのです。

                                未完

« 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 3/7 | トップページ | 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 1/7 総括 »

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

倭人伝新考察」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 3/7 | トップページ | 新・私の本棚 「唐六典」「水行」批判と「倭人伝」解釈 三新 1/7 総括 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年7月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ