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2023年4月30日 (日)

新・私の本棚 松尾 光 「現代語訳 魏志倭人伝」壹 祢軍墓誌「本余譙」談義 再掲

 新人物文庫 .KADOKAWA/中経出版 Kindle版
 私の見立て ★★★★☆ 倭人伝訳文は ★★☆☆☆  2020/08/02 2023/04/30

〇はじめに 余塵顕彰
 本書は、倭人伝現代語訳の労作を展開しているが、ここに提示するのはその余塵である。しかして、肝心の倭人伝訳文は偉業ではあるが、俗説/定説どっぷりの凡々たる展開と見る。おまけ部分は、力作であって毀誉褒貶混沌であるが、本稿では触れない。

〇百済祢軍墓誌に関する考察
 墓誌本文については、別記事で詳報したので、当記事では省略する。ここでは、改行を追加して、氏の注記を引用する。
(2)日本の餘、扶桑に拠りて以て誅を逋がる
 
白村江の戦いに敗れた日本軍の残党ともいえるが、百済の残党とも読み取れる。

 というのは前項の『旧唐書』列伝劉仁軌伝の続きに「百済の土地を棄つるべからず。余豊は北に在り、余勇は南に在り。百済・高麗は旧より相党して援く。倭人遠しと雖も、亦相影響す【百済の土地を棄ててはならない。余豊璋は北(高句麗)におり、余勇は南(倭)にいる。百済・高句麗はもともと相党して助け合っていた。倭人は遠いとはいえ、亦おたがいに影響しあっている】」とあり「扶余勇は扶余隆之弟也。是時走れて倭国に在り、以て扶余豊の応を為す【扶余勇は扶余隆の弟である。白村江の戦いの時に戦場から逃れて倭国におり、それによって余豊璋の応援をしている】」とある。余勇はほかに見えないが、扶余隆の弟ならば余豊璋の兄か弟である。余豊璋とともに人質とされていた余禅広(善光)は日本に滞在し、帰国しないまま百済王の氏名(うじな)を得ている。この余禅広の実名が扶余勇だったのか。

 その当否はともかくとして、倭国では唐軍の侵攻を覚悟し朝鮮式山城・水城の防禦施設や烽火という情報伝達施設を造らせて本土決戦の日に備えているが、唐では高句麗と連携した倭軍による百済復興・唐軍挟撃の動きを警戒していた。


〇時代考証の試み~史料批判の第一歩
 史書の解釈で、時代考証が混乱しているのは気がかりである。

 何しろ「唐軍の侵攻を覚悟し」「本土決戦」と、現代諸兄姉には耳に馴染まない、言うならば、古代史には場違いな「大本営」用語が飛び出すが、ヤマトに王都防衛施設を大挙造成したとは聞かない。また、ヤマトが、比較的近場の百済残党を差し置いて、極北の高句麗とどう連携したか、誰の懸念か不審である。全知全能の神のごとき陰謀説は、華麗で俗耳に馴染みやすいが、限りなく後世人の妄想世界と見える。

 と言うように、さまざまな時代錯誤、視点のずれが露呈している。

〇早計、浅慮の俗説への適確な異論
 重大なのは、八世紀冒頭の公開以前で誰も知らない「日本」が墓誌に書かれたとの「俗説」である。

 舊唐書では、専ら「倭」であり、倭、倭人ないし倭国と気ままである。「日本」なぞ誰も理解できないから墓誌作者は「日本」余譙と書けず、氏の提起のように百済残党、「本藩余譙」を「本余譙」と縮めたではないか。私見では、墓誌構文としては、「于時日、本余譙」と三字句に読むものだろう。

 案ずるに、墓誌は、唐代当時最高の教養人を読者として想定し、「読者衆知の百済亡国後の残党の想定で書いた」のであり、読者にとって典拠不明の「日本」を書くはずがないと思う。

 して見ると、本件で早計、浅慮の俗説の粉塵の中、氏が文脈を丁寧に読み取った「百済の残党」は、燦然と筋が通っていると賛辞を呈したい。「俀国ヤマト説」など「党議拘束」の範囲外では、氏は、卓越した史料解釈を示すようである。

〇先行文献調査不備
 基本的な事項であるが、「祢軍墓誌」解釈は未踏分野でなく、論文の数は限られているから、逐一、確認が可能と思う。
 当ブログでは、素人なりに著名な先行論考を克服して、『祢軍墓誌に「日本国号不在」』と断じている。よくよく調べて書くべきではないか。

 私の意見 禰軍墓誌に日本国号はなかった 1/6  序論

                                以上

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