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2023年5月 3日 (水)

新・私の本棚 番外 毎日新聞「今どきの歴史」『天皇制の「伝統」』論 1/2 補

 私の見立て★★★★☆ 必読       2019/05/16 2023/05/03
 今回の題材は、毎日新聞夕刊文化面の月一の歴史コラムです。

*総評 
 「天皇制の「伝統」とは 時代に即した柔軟性」が、紙面に掲示されたタイトル。

 論説として稚拙です。どこが、どう不出来なのか、以下、当ブログの芸風に沿って丁寧に批判します。なお、当記事は、毎日新聞夕刊文化面記事で、同社サイトに掲示されています。(ネット記事のタイトルは、前回分流用。偽装か)

*「伝統」の時代錯誤
 まずは、タイトルの「伝統」に躓くのです、この言葉は、古代史では「王統を継承する」という限定された意味であり、「時代に即した柔軟性」などあり得ないのです。

*仁藤氏(敦史・国立歴史民俗博物館教授)の卓見
 担当記者は、「古墳時代前ずらし」主唱者として知られる歴博の教授である、仁藤敦史氏の論説を紹介しているので、たっぷりとした問答をへて書き上げたのでしょうが、このように、記者の語彙が混濁していると、ここに書かれている「今どき」の解釈が、仁藤氏の本来の意見かどうか疑念が残ります。と言うことで、丁寧に問題提起しますが、仁藤氏の論説の成り行きそのものについて難詰しているのではないのです。

*書紀の大予言
 劈頭、記者は、「日本書紀」に天皇家萬世一系の伝統が説かれていると、書紀知らずの素人にも自明の暴言ですが、書紀」そのものから、以後、現代に及ぶ伝統が読み解けたら、神がかりでしょう。まして、また、記者は、五世紀論で、書紀を棄て、宋書の書紀欠落部に触れて平然としています。真偽は別として、その場凌ぎもいいところです。
 因みに、仁藤氏は、神武天皇以来武烈天皇までの「伝統」について、特に主張せず、五世紀に関する推定とそれ以降の考察の対比だけにとどめて、非科学的な神がかりにはなっていないのは、記者も学ぶべきでしょう。

*古墳群並行着工の奇観
 五世紀、4~5カ所に、それぞれ自律的に古墳を造成する有力勢力が割拠、並存していたとは通りすがりに大胆ですが、古墳群は、厖大な物資と労力を長期間に亘って食らう呑舟もので、構想だけでも神業であり、広く労働力と「経済力」を空費する超巨大労務を長年に亘って強要する強大権力は驚異です。大勢の識字官員による文書記録と計算によってのみ、そのような壮大な「史実」が成り立つでしょう。

 労力だけ見ても、従来、古墳造成は、今日の近畿圏のかなりに及ぶ動員が必要と見ています。記者が、諸勢力割拠の広がりをどう想定しているか不明ですが、各勢力の造成が競合すれば、素人にも、全面的な混乱が想像できます。長年に亘り、従来当社比数倍の広域から成人男子を徴用すれば、営農不能、農産壊滅で、全土で飢餓必至と見えます。亡国の策と見えます。

 既存説は、畿内圏で一時に一カ所の造成で、並行すると想定していなかったのですが、それでも、地域経済の疲弊が想定されていました。それも「時代」の一様相で強行されていたのでしょうか。いずれにしろ、素人には、畿内で大規模古墳を複数カ所並行施工するとは信じられないのです。三世紀開始として、倍速進行でも、古墳施工場所も含めて、四世紀末には万事枯渇したはずで不可解です。

 仁藤氏ほどの碩学ですから、仁藤氏には、論理的な反論があるかも知れませんが、素人の代弁者であるべき記者の受け売りでは、一般読者には、氏の真意は、知りようがないのです。

                               未完

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