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2023年6月 9日 (金)

新・私の本棚 番外 NHK BSP「 邪馬台国サミット2021」(1) 速報編 再 3/3

[BSプレミアム] 2021年1月1日(金) 午後7~9時 NHKオンデマンドで公開中  
私の見立て ★★★☆☆ 前年比改善顕著 前途遼遠   2021/01/30 補筆 2023/06/09

*「殿、ご乱心」~出所不明史料の怪、また怪
 今回の番組で、何とも重症なのは、三国志学」首魁渡邊義浩氏の暴です。
 「倭人伝」考証で、選りに選って、「翰苑」とは、何とも場違いですが、対照された「会稽東治東」ならぬ「会稽東冶東」の史料影印は、出所不明で投げ出されたのです。

*「中華書局本」の闇討ち
 紹興本、紹熙本に始まる古史料に「会稽東冶」は存在しません。それぞれ木版印刷で個体差はないので、どこで見つけたのかその場では不明です。
 散々調べた後で、諸刊本で「東治」と一致している「東治」が「中華書局本」で、なぜか「東冶」と「改竄」されていたのです。しかし、堂々と史料にない「邪馬台国」と言う以上、この際、別に異本はいらないはずです。

*「翰苑」史料批判の齟齬
 翰苑編者が、当時の写本の会稽「東治」を「会稽」とした(らしい)のは、世上、「東冶」との混同があり「東治」を削除したとも見えます。
 「東治之山」の由来が明記された「水経注」などでも、禹后が会稽した会稽「東治之山」が「東冶之山」と誤記された異本があります。というものの、翰苑は「東冶」「東治」のいずれでもなく、氏は、あえて現代史料で「東冶」を正当化していて、これは、史料考証の無用な愚行と思われます。
 渡邉氏は、陳寿「三国志」と袁宏「後漢紀」以外は、読み込んでいないのでしょうか。いや、もちろん、笵曄「後漢書」全訳の偉業は、初回記事では言い漏らしたのですが。それにしても、偏食の科は重いのです。

 渡邉氏は、過去の「特番」で、史官、つまり、陳寿が史実の忠実な継承を職務としていなかったとの暴言を吐いていて、いわば、暴言常習犯なのですが、なぜか、再度のお座敷がかかっています。もしかして、中国で古典的な「滑稽」の役を担っているのでしょうか。

*ついでの話
 別件ですが、氏の「黥面文身」解釈は軽薄で的外れと見えます。黥面は「顔面烙印」としても、図版の無い「倭人伝」に、出所不明の図版や遺物を担ぎ出すのは、誠に不審です。倭人伝」解釈に関係ない「外野」の資料を堂々とぶち上げる論議が、却って、不審を感じさせます。
 場外乱闘好きなら、三世紀当時、倭で広く行われた黥面が、日本史で蔑視されているのは、どういうことか、説明戴きたいものです。因みに、中国で顔面に黥するのは罪人の徴とされていたのです。

 更に言うと、何れかの時点で黥面制度が変わったのなら、旧制度の貴人が、新制度では罪人となるのです。歴史的、画期的な大事件の筈なのですが、記録は残っているのでしょうか。不審です。
 また、「倭人伝」にある黥面文身の「水人」は、畿内ではあり得ないのです。奈良盆地で大量の魚鰻をどうやって捕らえたのか、説明できないのです。
 それとも、氏は、当番組では、中国史書専任で、国内史書に一切言及しないと談合していたのでしょうか。うさん臭い話です。

〇通じない箴言
 氏の意見に対して、厳しく論難するのは、氏が三国志権威とされているからです。折角、「倭人伝」は、『中国教養人が中国教養人のために古典の言葉で書いたから理解されたのであり、無学な現代人には当然「不可解」である』と示唆しても、同時代人同士で意味が通じていないのは、残念です。
 要するに高樹悲風多しです。

〇まとめ~司会者の叡知
 司会者の「古い解釈を取り除いて原本から出直す」との至言は見事です。
 きっと、来年は、原点に還った新鮮な論議が聞けるものと期待しています。

                             この項完

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