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2023年7月 3日 (月)

新・私の本棚 三木 太郎 『「太平御覧」所引「魏志倭国伝」について』 再掲 3/3

邪馬台国問題の論争点について  2019/02/17 補充 2022/02/18 05/30 2023/07/03
私の見立て ★★★★☆ 必見 「日本歴史」349号 (1977年6月)

*また一つの我田引水
 残念ながら、氏は、特定の史観の学派に党議拘束されているのか、多大の議論を、一定の目的意識/使命感に背を押されて進めていて、客観的な論証から逸脱した我田引水に労力を費やしていると見え、大変痛々しいものの、少なくとも、その判断の根拠を明示しているので、学術的な錯誤とまでは言わないのです。

*傾いた道しるべ
 そういう視点で見れば、三木氏の本論への取り組みは、若干倒錯しています。
 明らかに、今回の論考は、到達点として、列記された課題を掲げて始まり、終始、そのような「青雲」を目指して道を選んでいるから、道が曲がっても躓き石があっても、ものともせずに、正義の旗を高々と掲げて、断固直進したとみるのです。

 いや、それは、氏だけではないのです。少なくとも、古代史学界では、大抵の論者がいわば天命に即して苦闘していて、そのような取り組みが、往々にして、結論に合わせて経路を撓める経過を辿っていて、ときに、岩脈に素手で洞門を掘り抜いているのですが、大命を背負っていない素人は誠意を持って指摘するのです。
 三木氏が、先に挙げた参照資料の難点を意識外として、字面に沿って考察したのは、そのような背景からでしょう。
 燦然と輝く道しるべは、既に傾いていたのです。

 客観的な考察は、それ自体が学術的な成果ですが、課題必達型の主観的な考察は、自ら、学術的な価値を正当化できず、却って貶めているようにも見えます。いや、真摯な論考をこうして批判するのは、大変後ろめたいのですが、「曲がった」論考がなぜ曲がったか、率直な意見を呈して、学会に関わりの無い、一介の私人たる素人が、古代史学に貢献できればよいと考えるのです。

*風化した雄図
 氏が提示した以下の結論は、そのような議論を支持する論者には大いに歓迎されたとしても、氏の雄図はむなしく、本論公開時点以来、四十年を経て、依然として、単なる作業仮説に留まっています。もったいないものです。

 論争を終熄させるべき時宜を失し、執拗な風雨に正論の松明が負けるように、風化してしまったのでしょうか。真摯な論争が途絶えたように見える現時点では、こうした三十~四十年を遡る真摯な論文が必読資料と見て、辛抱強く発掘しては、紹介旁々、持論を宣伝しているのです。

 天に届く劫火に手桶の水を柄杓(卑の字義)で手向けるに過ぎないかも知れませんが、手桶の水の微力にも、微力なりの効果があると信じているのです。

*解けない問題を解くために
 以下、掲げられた成果から見て、三木氏が掲げた下記の正否は素人目には明白ですが、どのような課題を自らに課すかは、各論者の専権事項であり、批判/論義の対象外です。ですから、いちいち批判は加えません。ここで批判しているのは、考察の客観性の蛇行なのです。

    1. 邪馬台、邪馬壱論争は邪馬台国の名称が正しいこと。
    2. 倭国乱の時期は霊帝光和中であること。
      中国使節は卑弥呼に拝仮したこと。
    3. 邪馬台国までの行程記事は直進的に読むこと。

 と言うものの、世上、邪馬台国論争は混迷を続けているとか、なかでも、所在地論は、千人千様であるが悉く間違っている」とお見通しであるとか、数限りない野次馬の嘲笑罵声を浴びせていますが、それは、議論の立脚点を固めないままに当て推量を積み重ねて、ここに唱えられているような砂上の楼閣を高々と築き上げたからだと感じる次第です。

 二十一世紀、令和の時代、半世紀どころではない太古の原点に戻って、問題の読み方から考え直すべき時代が来ているように思量します。

                               完

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