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2023年7月22日 (土)

新・私の本棚 番外 第410回 邪馬台国の会 安本美典「邪馬台国への里程論」

          2023/05/21講演    2023/07/22
*総評
 安本美典師の史論は知的創造物(「結構」)であるから、全般を容喙することはできないが、思い違いを指摘することは許されるものと感じる。

*明快な指針
 安本師は、本講義でも、劈頭に明快な「指針」を示して、混沌に目鼻を付ける偉業を示されているが、以下、諸家諸兄姉の諸説を羅列していて、折角の指針は、聴衆の念頭から去っていたのではないかと懸念するほどである。
 藤井氏の提言に啓示を受け、背後の地図は扨置き、郡から狗邪韓国まで一路七千里と明記し、俗に言う「沿岸水行」は、見事に排除されている。

*混迷の始まり
 倭人伝「現代語訳」で「循海岸水行」を「沿岸水行」と改訂し、後世に混乱を残したのは、何とも残念である。
 「倭人伝」解釈は、「倭人伝」自体に依拠すべきであり、確たる検証がない限り、遙か後世の東夷に従うべきではない』のではないかというのが、当ブログ筆者の意見であり、以下の諸兄姉の言説は、総じて最初の一歩を踏み間違えているので「論外」というのが率直な意見である。と言うことで、本項では、諸言説を否定も肯定もせずに進んでいる。

 安本師は、「倭人伝」道里が誇張であると称する弾劾に同意せず、地域固有の論理/法理に従って「首尾一貫している」と至当な見解であるが、続いて、後世日本での里制の乱れを紹介し、それ故に『中国に於いて「里」が動揺していた』との不合理な解に陥っている。
 これは、古代中国には無縁の曲解である。後世東夷の事情で起きた事象が、三世紀倭人伝の記述に影響を及ぼすはずがないのは、自明では無いかと思われる。
 中国は、少なくとも秦代以来、厳然たる「法と秩序」の文明国家であり、中国「里制」は、魏晋に至るまで鉄壁不変/普遍普通の鉄則と見るべきと思うのである。楽浪郡は、漢武帝創設の漢制「郡」であり、当然、郡統治は、秦漢通用の「普通里」が、厳然と適用され、帯方郡は、当然、これに従ったのである。不法な非「普通里」が横行していたというのは、とんでもない言いがかりでは無いかと思われる。

 このあたり、安本師の限界か、「倭人伝」解釈に齟齬を見てとって中国の「法と秩序」の不備に原因を求めているように見えるが、陳寿には、反論のすべがないので、素人が僭越にも代弁するものである。

 率直なところ、師の認めた「地域短里」は、秦漢魏晋の「漢制里制」、一里四百五十㍍程度の「普通里」が、『漢武帝が設立した漢制楽浪郡に於いて施行されて「なかった」』という不合理な解釈に依存しているので、残念ながら従えないのである。

*ローカルな話/明帝遺訓の万二千里
 ここで提言したいのは、師の「地域短里」は、地理的なLOCALであるが、ここは、文書内の局所定義という意味のLOCALと進路変更頂きたいというものである。
 別に述べたように、後漢末期の建安年間、遼東郡太守公孫氏は、新参の東夷である「倭人」の身上を後漢、曹魏に報告しなかったが、天子の威光の辺境外の荒地を示す「万二千里」の道里を想定したと見える。
 司馬懿の遼東征伐で公孫氏文書は破壊されたので、公孫氏の想定は明記されていないが、曹魏明帝が事前に帝詔をもって両郡を配下に移し郡文書が洛陽に回収されて、「天子から万二千里」の東夷が明帝の目にとまったと見える。斯くして曹魏皇帝が万二千里を公式に認定し、明帝遺訓となったので、史官である陳寿が金文の如く尊重し、斯くして、「倭人伝」に「ローカル」道里が記載されたと見える。
 そのように筋を通さなければ、公孫氏遼東郡時代の楽浪/帯方郡の東夷管理記録が、魏志に収容された事情がわからないのである。

*まとめ/一路邁進願望
 安本氏に期待するのは「邪馬臺国」がどうであれ、「倭人伝」道里は、最終的に九州北部(北九州)に達する、筋の通った、明快な書法であり、当時の読者が納得したものと理解して、史学論の泥沼を排水陸地化して頂きたい。

 禹后本紀は、堅固な陸地移動を「陸行」車の移動とし、河水の流れに沿う移動を「水行」船の移動としたが、介在する「泥沼」は橇で水陸間を連絡移動していると総括している。

 倭人伝の公式道里記事を、陸地なる「海岸に沿う」と称して、泥沼/海浜を「水行」させる議論は、早々に排除して頂きたいのである。もっとも、正史記事で「海岸沿い」は、陸地の街道と見るものではないかと素人なりに思量するものである。ご一考いただきたい。

                               以上

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