« 私の感想 毎日新聞 囲碁 UP TO DATE 「AIとの付き合い、手探り」 | トップページ | 新・私の本棚 番外 第410回 邪馬台国の会 安本美典「邪馬台国への里程論」 »

2023年7月22日 (土)

新・私の本棚 番外 第411回 邪馬台国の会 安本美典 「狗奴国の位置」

            2023/06/18講演           2023/07/22
*総評
 安本美典師の史論は知的創造物(「結構」)であるから、全般を容喙することはできないが、思い違いを指摘することは許されるものと感じる。

*後漢書「倭条」記事の由来推定
 笵曄「後漢書」は、後漢公文書が西晋の亡国で喪われたため、先行史家が編纂した諸家後漢書を集大成したが、そこには「倭条」部分は存在しなかったと見える。
 後漢末期霊帝没後、帝国の体制が混乱したのにつけいって、遼東では公孫氏が自立し、楽浪郡南部を分郡した「帯方郡」に、韓穢倭を管轄させた時期は、曹操が献帝を支援した「建安年間」であるが、結局、献帝の元には報告が届かなかったようである。
 「後漢書」「郡国志」は、司馬彪「續漢書」の移載だが、楽浪郡「帯方」縣があっても「帯方郡」はなく郡傘下「倭人」史料は欠落と思われる。

 笵曄は、「倭条」編纂に際して、止むなく)魚豢「魏略」の後漢代記事を所引したと見える。公孫氏が洛陽への報告を遮断した東夷史料自体は、司馬氏の遼東郡殲滅で関係者共々破壊されたが、景初年間、楽浪/帯方両郡が公孫氏から魏明帝の元に回収された際に、地方志として雒陽に齎されたと見える。

*魚豢「魏略」~笵曄後漢書「倭条」の出典
 と言っても、魚豢「魏略」の「倭条」相当部分は逸失しているが、劉宋裴松之が魏志第三十巻に付注した魏略「西戎伝」全文から構想を伺うことができる。
 魚豢は、魏朝に於いて公文書書庫に出入りしたと見えるが、公認編纂でなく、また、「西戎伝」は、正史夷蕃伝定型外であり、それまでの写本継承も完璧でなかったと見えるが、私人の想定を一解として提示するだけである。
 笵曄「後漢書」西域伝を「西戎伝」と対比すれば、笵曄の筆が後漢代公文書の記事を離れている事が認められるが、同様の文飾や錯誤が、「倭条」に埋め込まれていても、確信を持って摘発することは、大変困難なのである。

*狗奴国記事復原/推定
 念を入れると、陳寿「魏志」倭人伝は、晋朝公認正史編纂の一環であり、煩瑣を厭わずに郡史料を集成したと見える。史官の見識として、魚豢「魏略」は視野に無かったとも見える。魚豢は、魏朝官人であったので、その筆に、蜀漢、東呉に対する敵意は横溢していたと見えるから、史実として魏志に採用することは避けたと見えるのである。
 それはさておき、女王に不服従、つまり、女王に氏神祭祀の権威を認めなかった、氏神を異にする「異教徒」と見える狗奴国は、「絶」と思われ、女王国に通じていなかったと見えるので、正始魏使の後年、人材豊富な張政一行の取材結果と見える。

 安本師が講演中で触れている水野祐師の大著労作『評釈魏志倭人伝』(雄山閣、1987年刊)に於いては、「其南有狗奴國」に始まる記事は、亜熱帯・南方勢力狗奴国の紹介と明快である。

其南有狗奴國。男子爲王、其官有狗古智卑狗、不屬女王。[中略]男子無大小皆黥面文身。[中略]計其道里當在會稽東治之東。[中略]男子皆露紒以木綿招頭。[中略]種禾稻、紵麻、蠶桑[中略]所有無、與儋耳朱崖同。

 一考に値する慧眼・卓見と思われ、重複を恐れずに紹介する。

*本来の「倭記事」推定
 つづく[倭地溫暖]に始まる以下の記事は、冬季寒冷の韓地に比べて温暖であるが亜熱帯とまでは行かない「女王国」紹介記事と見える。

倭地溫暖、冬夏食生菜、皆徒跣。[中略]其死、有棺無槨、封土作冢。[中略]已葬、舉家詣水中澡浴、以如練沐。[中略]出真珠、青玉。[中略]有薑、橘、椒、蘘荷、不知以爲滋味。[中略]自女王國以北特置一大率[中略]皆臨津搜露傳送文書賜遺之物[中略]倭國亂相攻伐歷年乃共立一女子爲王。名曰卑彌呼。事鬼道能惑衆。年已長大。無夫婿。[中略]女王國東渡海千餘里復有國皆倭種。[中略]參問倭地絕在海中洲㠀之上或絕或連周旋可五千餘里。

*結論/一案
 要するに、「倭人伝」には、狗奴国は女王国の南方と「明記」されている。但し、時代を隔て、一次史料から隔絶していた笵曄が、解釈を誤ったとしても無理からぬとも言える。
 要するに、笵曄「後漢書」東夷列伝「倭条」は信頼性が証されず「推定忌避」するものではないかと愚考する。(明快な立証がない限り、取り合わない方が賢明であるという事である)

 安本師は、当講演では、断定的な論義を避けているようなので、愚説に耳を貸していただけないものかと思う次第である。

                                以上

« 私の感想 毎日新聞 囲碁 UP TO DATE 「AIとの付き合い、手探り」 | トップページ | 新・私の本棚 番外 第410回 邪馬台国の会 安本美典「邪馬台国への里程論」 »

季刊 邪馬台国」カテゴリの記事

新・私の本棚」カテゴリの記事

後漢書批判」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 私の感想 毎日新聞 囲碁 UP TO DATE 「AIとの付き合い、手探り」 | トップページ | 新・私の本棚 番外 第410回 邪馬台国の会 安本美典「邪馬台国への里程論」 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

カテゴリー

無料ブログはココログ