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2023年7月 3日 (月)

新・私の本棚 榎一雄著作集 第八巻 「邪馬台国」 御覧所収魏志 増補 5/5

汲古書院    1992/5
私の見立て ★★★★★ 不朽の金字塔 必読   2019/07/13 記 2022/09/02 補充 2023/07/03

*写本改竄疑惑
 榎師の精査の動機の一部は、氏の畢生の学説である魏志倭人伝行程記事後半の放射状経路が、所収「魏志」などで直線行程としか読めないように改変されている由来の解明でしょう。何しろ、氏の画期的な明察に対して、「文法的に誤っていて成立しない」とか「後世史書は、直線的としか読めないように構成されている」とか、見当違いな批判が山積しているので、氏としても、大いに不本意で、克服を図ったものと見えます。何しろ、批判は、感情的、非論理的で、根拠不明なので、反論が特定しがたいのです。

 榎師によれば、これもまた、「北齊」に先行する「東魏」とその前の「北魏」時代に、「東晋」、南朝諸国への東夷遣使の上申書などの示唆で、「邪馬台国が畿内にあったとも読めるように補正したのではないか」というものです。時に聞かれる後世改竄説の余塵が感じ取れる気もしますが、空耳でしょうか。
 そうであれば、「邪馬臺国」自体が「倭人伝」原典にないものであり、類書編纂時に意図的に取り込まれた改変かと思われますが、榎師は、そこまで踏み込んではいないのです。まあ、掲載されたのが、「季刊邪馬台国」なので、「邪馬台国」後世付会説は、出てきにくかったはずです。

*「倭国」国号の発祥
 してみると、かつて「倭人」として威勢を誇った東夷政権は五世紀までに舞台を退き、新政権は政権交代を表現して「倭国」と名乗ったかもしれないのです。すべて、唐書のような後世文書を除けば、信頼するに足る文書資料がないので「かも知れない」で「おしまい」、幕引きなのです。

 榎師は、「魏志」、「後漢書」共に「倭国」国号を記録していないのに対して、宋書以降の正史は、「倭国」を自称したと明記しているので、何か事情があったと見ているのです。そして、厳重に管理されている「魏志」原本は不可侵としても、類書編纂用に書写された通用写本は、随時手を加えて当時の常識に合わして改善され、先に述べた先行類書所収の「魏志」は、当時で言う「現代化」されていたと推定したのです。

 榎師の推察は、所収「魏志」の先行類書由来部は、「倭国」国号と直行経路の影響を受けているのに対して、現行刊本、ないしは、所収「魏志」の「御覧」編集時の新規引用文は、倭国国号の影響を受けていないとことから来ています。

*「魏志」写本の継承
 御覧論客は、「御覧」が宋代編纂であって、南宋刊本に先行していることに、徹底的にこだわり、実は、さらに三世紀先行していることに気づいていないようです。
 陳寿原本は、「劉宋」史官裴松之により、精査、付注されましたが(429)、「三国志」上程以来、晋(西晋、東晋)に続いて、劉宋でも貴重史書として保護されていたとわかります。
 裴注付注本「三国志」の上程以後、裴注のない原三国志は、保護の対象から除外され、早々に廃棄されたものと思われ、北齊、唐の類書の所収記事は、裴注を含めて引用されているものです。

*類書編者の「編集」加筆 
 類書編集者は、当時の「古典書籍」を類書に所収する時は、当時の「現代人」の常識ですらすら読める記事に改訂/改竄して、加筆したのであり、正史管理者が、古典書籍を原型継承を必然としていたのとは使命感が異なるのです。つまり、類書記事は、後世編者の創作と言えるのです。
 類書編集者の引用文に、厳密な正確さを求めるのは見当違い」と言えます。

 正史管理者が組織的に正史原本に改竄を行うことは、断然あり得ないとしても、類書編纂者は、むしろ、古典書籍の改善に努めて美しく改訂したのです。いわば、美文家范曄の輩(ともがら)であったのです。

◯しめくくり
 当記事は、榎師の大部の論考の要部を占めている「太平御覧所収魏志」の資料批判を行ったものであり、世上流布している浅慮とも思える速断の議論を、是非見直していただきたいものです。

 本書は、滅多に参考文献として引用されないのですが、そのような後世史学者の手ひどい不始末は、「史学者として、大変、不勉強、不明ですよ」と苦言を呈しているのです。因みに、「不勉強、不明」とは、本来、当人が、自身の公言を卑下して言うものですが、ここでは、適当な苦言表現が見当たらないので、しかたなく、「誤用」しています。
                                完

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