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2023年7月 3日 (月)

新・私の本棚 榎一雄著作集 第八巻 「邪馬台国」 御覧所収魏志 増補 3/5

汲古書院    1992/5
私の見立て ★★★★★ 不朽の金字塔 必読   2019/07/13 記 2022/09/02 補充 2023/07/03

*唐から宋へ
 以上のように、西晋代の「三国志」上程以来、長い戦乱と分裂の時代を歴て、「唐」帝国が三百年に垂(なんな)んとする盤石の大帝国を築き、周辺諸蕃の世界を文明の光で啓発した中国文明の黄金時代が来たのですが、諸行無常、まずは、東北辺境の守りを托した梟雄安禄山の反乱で、京師から皇帝が脱出する惨事を招き、一旦大乱を平定したものの、最後は、多発する反乱の的となって滅び、暫しの乱世を歴て、文治を根本として「宋」が全国を統一したのです。

◯太平御覧
 と言うことで、宋代の「太平御覧」編纂に到るのですが、唐代と事情が異なるのは、文治主義の「宋」は、軍備に大量に投入されていた国費を、官僚の俸給を格段に手厚くするなど、官民打ち揃っての文化活動、経済活動の振興に注ぎ、また、首都を、城郭都市である洛陽から、開放的な開封に移したのに加えて、国都機能を分割することにより、各都市の興隆を促したのです。
 ついには、木版印刷を国営工房で展開し、各地方の有力者に、経書、史書の規範「刊本」を供給し、粗悪な写本の駆逐を図ったのです。
 全て、平和のためには蛮人に兄事し莫大な償金を払う、つまり、平和を金で買うことを恥としない文治思想の表れであり、一時代を画すものでしたが、永久政権では無かったのは言うまでもありません。

 以上、文化的背景の推察を踏まえながら、「三国志」の編纂、上程以来の、中国情勢を通観し、「太平御覧」とその原典となった先行類書の編纂背景を見渡そうとしたものです。別に、権威のある学術的意見ではなく、参考にしていただければ幸いです。

*古代から中世に 紙の作る歴史 余談
 宋代の国内安定化は、商業活動の振興につながり、各地に富裕層を輩出させ、富裕層が蔵書家となったこともあって、写本は、経書需要に加えて、一大産業となり、それを支える用紙産業も確立したのです。
 印刷事業は、元々、生活必需品である暦の量産に発したものであり、ついには、市のチラシのようなものが出回ったらしいのです。要は、版画のような一枚刷りに発しているのです。

 写本時代、書物は巻物形式だったのです。綴じ本には、定寸の単葉紙が大量に必要です。しかも、一冊の冊子であれば、厚さ、肌合い、色合いの統一が求められ、工業的な大量生産が必要なのです。印刷本時代になるには、後漢以来の製紙工房が長年を歴て大量生産工場となり、量産体制ができたと言うことであり、併せて、故紙、反古の回収、再生も繁盛したと言うことです。
 それ以外にも、経理台帳、戸籍、役所記録なども、急増したでしょう。特に、戸籍は、定期的な更新ごとに大量の用紙を消費したでしょう。
 何事も、需要の拡大は、価格低下、さらなる需要の拡大を呼ぶのです。唐代に、中国の古代は終焉し、中世が開始したと言われるゆえんです。

*類書考察
 本論に戻ると、類書は、編纂過程の編集力に限界があり、なべて高品質とは行かなかったのです。大量の記事を書くためには、玉石混淆の人材を動員、激しい督促を行ったと想像されるので、記事の信頼性は求め得ないのです。要するに、大著の編集は、粗製濫造だったのです。

 その上に、先行類書が三世紀余り継承された過程の信頼性も当てにならないのです。正史は、経書、仏典同様に、厳格な手順で、確実に写本されたとしても、類書は世俗のものでぞんざいに扱われた可能性が極めて濃厚です。

                               未完

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