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2023年7月 2日 (日)

私の所感 岡上佑 「魏書倭人伝の究明」「サンプルファイル」読後感 1/2

 「魏書倭人伝の究明」「サンプルファイル」                                               2023/07/02

◯書評ならぬ所感の披瀝
 本稿は、YouTube講義で、令名をはせている氏が、快く公開されている「サンプルファイル」に対する「所感」である。
 部分引用もしていないので、興味のある方は、クリックいただきたい。
 因みに、氏のYouTube講義は一通り拝視聴したが、厖大でつかみ所が無いので、ここでは、締めの効く文字史料批判とした。

*王沈「魏書」幻想譚
 筑摩版「正史三国志」の付記によると、「『魏書』:王沈・荀顗・阮籍編。魏の末期に成立したが、晋を建てることになる司馬一族におもねっているため、陳寿に劣ると言われている。甄皇后の項目では、……明らかに事実と異なった記述をしているので裴松之から叩かれている。」

 そもそも、王沈「魏書」は、当代皇帝とその父という、神聖不可侵の存在の治世を公式史書に綴るという無謀な著作として開始したので、「おもねる」も何も、端から阿諛追従、ウソ八百となっているのは明らかである。

 但し、明帝曹叡の早世により即位した少帝曹芳は、司馬懿の権力奪取によって形骸化したので、憚ることなく皇帝批判できたと見える。少帝曹芳は素行不良と弾劾され皇帝の座を追われたが、司馬氏の画策/造作と見える。以後、司馬氏の排除を図って殺害された皇帝もあり、事実上、明帝曹叡没後、曹魏は失墜したと見える。
 倭使は西晋文帝に参詣したと記録されている。陳寿が、最早、曹魏の国策でない倭の参上を、倭人伝に書き漏らしたのは、司馬氏に対する筆誅とも見える。もちろん、本紀に収録された記事の補足を、夷蕃伝に収録しなければならないという法はない。無意味な西域伝を割愛したくらいであるから、大したことではないのである。

*史官の面目
 司馬懿遼東征伐と並行して「明帝が指示して楽浪、帯方両郡を、魏皇帝の下に回収した」記事で、皇帝の指示で作戦を実行したのは、当然、明帝の信頼が篤かった幽州刺史毋丘儉であり、後に、司馬氏の専横に反抗挙兵して討伐、族滅となり、大功が隠蔽されたと見える。明帝臨終の場で、司馬懿は、継嗣曹芳の擁護を誓ったが平然と奪権したのと陳寿は対照している。
 つまり、「倭人伝」は、陳寿が毋丘儉の陰徳を書き遺したのであり、それ故、卑弥呼が顕彰されたが、毋丘儉が敗死し、卑弥呼が没した後の事績は、最早、「倭人伝」の主題から外れたものと見え、筆を止めたものである。

*王沈「魏書」評価
 「正史」は、本来、先行王朝の「史実」、公文書記録の集成であり、王沈が先例を無視して当代史書を書き起こした時点で、勝負は見えている。氏が、不法な史書を有力とする意図が不審である。陳寿「三国志」と異なり、王沈「魏書」は、三国鼎立時に曹魏の史書を書き残しているので、「正史」として不都合である。
 韋昭「呉書」が奉呈されたのは、西晋への降服時点であるから、王沈は、何も知り得なかったのである。また、「蜀書」は、蜀漢に史書記録がなかったため、陳寿が尽力して蜀漢公文書を元に編纂提出させたのであり、王沈「魏書」に未刊の「蜀書」は反映していない。
 王沈「魏書」は、「西戎伝」が、良好に保存されている魚豢「魏略」と異なり、ほぼ全滅しているので、論外ではないか。
 と言うことで、陳寿は、王沈「魏書」を閲読したであろうが、これを「剽窃」するなど、あり得なかったのである。この一点について、氏は、のらくら書いているのが、不都合極まりないから、いわば、いきなり「落第」である。
 当方は、「買わず」批判を嫌っているが、落第答案を、買い込む趣味はないから、氏の提示した「サンプル」はありがたい。金返せと言わずに済む。
 それにしても王沈「魏書」に、「倭人伝」があったとは、初耳である。

                                未完

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