新・私の本棚 出野正 張莉「魏志倭人伝を漢文から読み解く」⑴ 2/2 改訂
「倭人論・行程論の真実」 明石書店 2022年11月刊
私の見立て ★★★★☆ 待望の新作 2023/06/26 改訂 2023/08/14
*題目と定義文
漢文の定型をしばし忘れて、文意を理解しようと努力すれば、「従郡至倭」は、文章主語でなく、短文の掲題/タイトルとも見える。
続いて、後続記事で特に採用した用語の独自の定義が二件見て取れる。
➀ 以下で、水行は、海岸を発って、沖合に出て、対岸に向かうことを言う。
河川の渡船を海で行うから、渡海を「水行」と呼ぶのである。
② 以下で、道里は、郡から狗邪韓国までを七千里とするものである。
皇帝が公認した郡から倭まで万二千里の道里を按分するので、狗邪韓国までが七千里となる。
皇帝公認不可侵の「郡倭万二千里」を按分し狗邪韓国まで七千里とする。
郡から狗邪韓国まで、弁辰産鉄輸送路が整備済みで、「普通里」数は
既知であったが余儀なく「郡倭万二千里」の原器としたのである。
いずれも、皇帝公認の郡倭行程の三度の「渡海千里」や都「万二千里」が、倭人伝道里記事を頑として規正していることを示していたのである。
言うまでもないのだが、このような構文は、皇帝を含めた同時代「読者」に明快に理解されたものである。後世東夷の誤解は、陳寿の知ったことではないというか、まさか、無学の野次馬に寄って集って誹られるなど思いもしなかったのである。
*「倭人伝」は、時の試練を経た名著~「時の娘」
「倭人伝」に関して、西晋宮廷の知識人からも後代の史官からも、「水行」と「道里」に非難がないのは、陳寿が慎重に、定義文を織り込んだからではないだろうか。文句を言うのは、大局を知らない二千年後の東夷ではないか、と思うものである。
以上は、読んで頂いて分かるように、出野氏批判/個人攻撃などではない。「無教養な東夷」とは、世上山成す落第生を述べただけである。
古人曰く、「真実は時の娘」である。
*古田氏道里説の不備
古田氏の「魏晋朝短里説」は、理不尽である。また、「部分里数合算が全里数に等しい」との提言は、「千里単位/余里」概数を見過ごして罪深い。早計の誤謬は、最優先で正すべきであった。子孫に遺すべきではなかった。
*異例の筆法/明快な示唆
異例の筆法は未曽有であり、未聞事態収拾に先例はない。文献は文献をして語らしめよ、である。東夷伝を探り、魏志を辿れば、題意は明らかと見える。
何しろ、皇帝閲読の場で先例確認するには、皇帝書庫の簡牘巻物を取り出す「汗牛充棟」になり排斥されるだけである。その場の巻物を展開参照できる魏志第三十巻に依存できれば明快になる。
「倭人伝」は、時に「条」と揶揄される端(はした)に過ぎない。
◯本項まとめ
魏志第三十巻の掉尾を占める「倭人伝」を的確に理解するには、少なくとも編纂者である陳寿の真意/題意を想到するのが不可欠である。
と言っても、大したことではない。「倭人伝」道里記事は、郡倭行程道里を端的に書くのが至上命令で、解読の手がかりは当時読書人の「容易想到事項」が前提である。少考で解読できなければ、魏志全体が却下されかねないから、明解に書かれているのである。現代東夷は、自身の無教養で落第している。
要するに、二千年来提示、出題されている「倭人伝道里」「問題」(Question, Problem)が明解できないのは、解答者の知識不足「問題」である。
このあたり、随分、厳しい言い方になったが、それだけ、氏と張莉氏の共著に求められるものは、高いのである。出野氏には、絶大な漢文教養を持つ張莉氏が付いているのだから、当記事への反論を検討頂けたら幸いである。
以上
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