新・私の本棚 出野正 張莉「魏志倭人伝を漢文から読み解く」⑵ 1/1
「倭人論・行程論の真実」 明石書店 2022年11月刊
私の見立て ★★★★☆ 待望の新作 不用意な記述 2023/08/14
◯第二章『「魏志」「倭人伝」の「倭人」とはなにか』(出野)に異議がある。
氏の日本語語彙が古代史論の標準から離脱しているのは困ったものである。
1.カタカナ語偏愛「もとのルーツ」 27ページ
氏のカタカナ語愛好癖が不適切である。「論衡」「漢書」「倭人」の「もとのルーツは同じ」に困惑する。何の因果で奴隷制度を誹った「ルーツ」の義憤を踏みにじるのか。平明に「起源は同じ」と言わない屈折用語に、編集担当から「朱」が入らなかったのが不可解である。
2.生煮えの現代語「差別化」 57ページなど
現代造語は意味不明になる。「差別化」乱射があって、整備されたと期待された公道に「躓き石」の散乱に困惑する。人種差別と無関係な無邪気な造語と思うが、正統的な言葉に置き換えてほしいものである。
3.不明瞭な集団評価 57ページ
「日本の歴史学者」なる集団を世論調査した上か、『魏志の「倭」と「倭人」を同一視する人が「多い」』とするが、「多い」とは多数派なのか、一人でも多いのか、意味が通らない。7行を費やしたあげく、『「多くの歴史学者」は論証なしに自明の理としている』と自説の塹壕に逃げ込んでいると見える。
氏は、以下、面々と「倭」と「倭人」が、同一の概念では無いと主張しているが、皮切りに冗語を連ねているので主張に信を置けない。
4.資料乱獲~悉皆の悪弊
氏は、古代史「国」の意義を、確固たる「倭人伝」で足りず、茫漠たる「三国史記」、「三国遺事」で総浚えする。先賢によれば「倭人伝」すら、用語、文法の異同で複数史料に依拠した史書と評され隔絶文書導入は無謀である。
5.浅薄な前例批判
氏は、古田氏等の語義解釈を「国語」「和風」と揶揄するが、古田氏は、「倭人伝」以外の資料も史料批判しているので氏の批判は安直と見える。
氏は、先賢諸説を雑駁に捉えて『差別化』と処断しているが、自分好みの新語で批判するのは不合理と見える。ご自愛いただきたい。
浅学ながら『差別化』は、『敵の短所に対して自説を盛り上げ、「消費者」を「惑わす」舌先三寸の技芸』と見え、氏の使うべき言葉でないと愚考する。くれぐれも、ご自愛いただきたい。
*古代史用語談義
言うまでもないが、「倭」と「倭人」は、異なった単語であり、恐らく、太古の「倭」が、時代の推移で二字語になったとも見えるが、不明瞭である。
「國」は、太古、隔壁聚落を言い、次第に経済活動拡大と共に、「國」が融合して戦国時代、諸侯領域に「邦」となり、漢高祖実名「邦」を「國」とした際「國」を「國邑」としたと見える。時代によって文字/単語の意味は忽然と変化する。
陳寿は、史官として太古先哲用語を学んだので「國」の氾濫は抑えたが、原史料の「國」を書き換えることは許されなかったと見える。
案ずるに、漢代郡国制の「國」は、劉氏一族所領であり、高官郡太守は同格であるが、「倭人伝」に限らず蛮夷の「國」は蔓延し、史官は、漢魏本国の「國」と同格と取られないように文飾に努めたと見える。世間には、卑弥呼が「倭王」に任じられ、「倭」は帯方「郡」太守と同格と見る人までいるので釘を刺す。また、氏は、無頓着に「国名」と言うが、これも僭称である。
倭使難升米は、「大夫」と自称したが、倭は魏に臣従したものでなく、また、蛮夷が臣従を認められても、魏官位「大夫」など、もっての外であるが、鴻臚の慣わしで蛮夷の自称がありのままに記述されたと見える。
魏制に通じた後、官位詐称を已め「倭大夫率善中将」と蛮夷官位を名乗りつつ、通常は、縮して「倭大率」さらに「一大率」と称したと見える。(断然たる私見であるから、先例検索は無駄である)
と言う事で、出野氏には中国史書の沼に浸かって脱「和臭」をお勧めする。
本項完
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