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2023年8月14日 (月)

新・私の本棚 出野正 張莉「魏志倭人伝を漢文から読み解く」⑴ 1/2 改訂

「倭人論・行程論の真実」 明石書店 2022年11月刊
 私の見立て ★★★★☆ 待望の新作 2023/06/26 改訂 2023/08/14

◯始めに
 両著者共著の前著は、国内古代史学界で見られない、中国語を母国語とし国内史学者に対する忖度のない白川勝師漢字学の学徒である張莉氏の出色の著作であったので、さらに、漢文解釈で、一段と未踏の高みに前進した著作を期待したのである。

 本書で不満なのは、大半の章が出野正氏の力作となっていて、張莉氏の担当は、第三章「日本列島における倭人(国)の成立」、第四章『金印「漢委奴国王」』に限られ、特に、当方の主眼の「倭人伝道里行程記事」に関する第七章は、出野氏の難解なご高説を拝聴する仕掛けで、当て外れと言わざるを得ない。
 ともあれ、ここは、第七章でも局部的で、論点限定の批判である。

◯第七章「魏志」倭人伝の行程から歴史を解読する 出野正
 出野氏は、史料を引用する際に、出典を明らかにしないのが不満である。
*「翰苑」史料批判の不備
 出野氏は、「翰苑」においては、誤字、誤記の多い断簡である原史料を、校訂無し/史料批判なしに採用している。
 いや、「翰苑」の史料批判に於いて、諸兄姉同様に、見過ごしている先行論考を見落としているのである。
 学術的に論ずるなら、中国哲學書電子化計劃に収録されている《遼海叢書》本《翰苑 遼東行部志 鴨江行部志節本》で校訂済みの整然たる資料を参照すべきである。印影に見られる誤字乱調/乱丁の不備が校訂された整然たる活字本であって、例えば、誤解が広く出回っている「卑弥娥惑」は「卑弥妖惑」に、適確に校正されている。

 出野氏ほどの大家にしては不用意であるが、張莉氏は、何も指摘しなかったのだろうか。いや、公刊されている影印を見る限り、誤記、誤字満載で、誤字ですまない大事故も散見されるから、とても、「翰苑」に依存した提言などできないと思うのだが、なぜか、無校正で引用されているのである。
 出野氏は、太宰府所蔵本の影印を見て信頼しているのだろうか。それとも、いずれかの先人の解説書を丸呑みしたのだろうか。止まる枝は慎重に選ぶべきではないか。

*「水行」の「謎」

 中國古典で「水」は河川であり、『正史蛮夷伝行程道里定義に於いて、「水行」は海の移動に一切使わない/使えない』ことは自明である。張莉氏が異を唱えないのが不可解である。

*「循海岸」「問題」と「解答」を遮る迷い道
 古田武彦氏が「循海岸水行」を「海岸に沿って船で行く」と誤解した「愚行」に悪乗りしているが、「循」を「沿」と改竄した古田氏の誤謬は明白である。「循」の字義で、張莉氏の漢字学から誤解是正がないのは不可解である。
 私見では、「海岸」は海を臨む崖の陸地であり、「海岸」に沿うのは陸上街道しかない。陸上街道に沿って海を行く船は、岩礁、浅瀬、砂州で難破必至である。この点、郡官人に常識のはずである。

 むしろ、道里記事中の「渡海」で、対岸州島である 対海国に向かい「船で渡る」行程の解説と見るべきであろう。渡船は中原街道ではありふれているが、道里行程に含まれない些細なものとされていて、「倭人伝」では、それぞれ一日を要する渡海を「水行」行程と特筆して予告したものと見るものではないか。

 当時高官は、南部狗邪韓国へは既存官道の韓国中央縦断が確実/安全/安心であり、かつ、最短経路でもあるので「水行」は道を外れた危険行程の指示であり、官道たり得ないと絶対視していたはずである。従って、そのような「素直な」解釈であれば、「倭人伝」は、早々に棄却されたはずである。そこで、史官の真意を察することができなければ、合理的な解明は不可能である。

 出野氏は、山東半島からの魏船が、ここで荷下ろしして陸送に切り替える不合理を、堂々と示しているが、世上の諸兄姉と同様に、大きく勘違いしている。当記事は、郡と倭の文書通信の日常任務の規定であり、景初/正始の一度限りの荷運びの報告などと一言も書いていない。
 と言うか、公式道里は、皇帝に下賜物輸送の魏使を献策する前提に不可欠であり、儀式国語の制定となれば、大変な時間錯誤/倒錯になっている。
 少し常識を働かせれば、このあたりの錯誤は、いつでも、どこでも、誰にでも是正できると思うのだが、百何十年経っても、誰も気づいていないようである。いや、氏は、大勢に流されているだけかもしれないが、「文献解釈」を丁寧に進めれば、不合理が不合理として見えたはずである。
 して見ると、氏は、「文献解釈」に於いて、いきなり正史史料を、随分原文から乖離して、創作していると見える。

*中間報告
 ここまで、出野氏が、史料引用の際に出典を明らかにしない事が多いのが、大変不満である。氏は、自ら、在野の「研究者」であっても、既存の解説書に頼る安易な道を採らず、史料原文解釈に敢然と取り組んだと主張されているが、それなら、出典明記は必須事項ではないだろうか。あえて苦言する。

                                未完

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