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2023年9月 6日 (水)

新・私の本棚 番外 NHK特集「シルクロード第2部」第十三集~知られざる東西交流の歴史 再掲 2/3

                     2021/02/02 2021/04/23 2023/09/06
*ローマ・パルティア戦記
 因みに、敗戦には必ず復仇するローマで、三頭政治末期の内戦を制して最高指揮官の地位に就いたカエサルは、パルティア遠征を企てたが、暗殺に倒れ、カエサル没後の内乱期、エジプトを支配したアントニウスは、カエサル遺命として、前36年にエジプト軍と共にパルティア遠征したが、あっけなく敗退しています。
 初代皇帝として、ローマ帝国を創業したアウグストゥス帝の前21年、本格的な講和が成立し捕虜返還を交渉しましたが、敗戦抑留以来30年を要したため、捕虜は、全て世を去っていたといいます。余談ですが、初代皇帝アウグストゥスは、中国の秦始皇帝と大きく異なり、元老院の支持のもと密やかにローマの共和制に終止符を打ちましたが、表向きは、元老院の首席議員の立場にとどまり、専制君主を名乗らなかったのです。

*シリア準州駐屯軍
 ローマ-パルティア間に講和が成立しても、ローマ側では、共和制時代から維持してきたメソポタミア侵略の意図は堅持され、ローマ属州のシリアに総督を置き、四万人を常駐させたのです。

*あり得ない漢使シリア訪問~余談
 范曄は、『後漢使甘英が安息の「遙か西方の條支」まで足を伸ばした』と「創作」したので、「條支」を「シリア」(現在のレバノンか)と見る解釈がありますが、街道整備のパルティアの国土を縦走する行程は、延延百日を要する遠路であり、異国軍人のそのような長途偵察行が許されるはずはなく、まして、その果てに敵国との接触は論外でした。

 いくら、「安息」の名に恥じない専守防衛の国であって、常備軍を廃していても、侵略を撃退する軍備を擁していたのです。

 甘英の本来の使命は、安息国との締盟であって、援軍派兵を断られた以上、往復半年はかかる探査行など論外と見るべきです。西の王都まで数千里の長途であることは、武帝使節の報告で知られていたのです。
 いや、もし、実際に君命を奉じて、(范曄が安息西方と見た)厖大な日数と資金を費やして「條支」まで足を伸ばしたのなら、いかなる困難に直面しても、君命を果たすしかなかったのです。西域と塗膜の副官たる軍人甘英が、使命を果たさずに逃げ帰ったら、そのような副官に使命を与えた上官班超共々、軍律に従い厳しく処断されるのですが、そのような記録は一切残っていません。笵曄は、文官であったため、軍律の厳しさを知らなかったのでしょうが、それにしても、西域都護副官を臆病者呼ばわりするのは、非常識そのものです。
 因みに、班超は、勇猛果敢な軍人ですが、漢書を編纂した班固の実弟であり、文官として育てられたので、教養豊かな文筆家/蔵書家であり、笵曄は、そのような偉材に喧嘩をふっかけたことになるのです。
 いや、当ブログ筆者の意見では、條支は、途方もない西方の霞の彼方などではなく、甘英の視界にある巨大な塩水湖、大海(カスピ海)のほんの向こう岸と信じているので、范曄の意見は、誤解の積み重ねに無理筋を通した暴論に過ぎないのですが、なぜか、范曄の著書は俗耳に訴えるので、筋の通った正論に耳を貸す人はいないのです。

 いや、またもや、長々と余談でした。

*東西交流の接点
 と言うことで、メルブは、「ジュリアス・シーザー」が象徴する西のローマと「武帝」が象徴する東の漢の接点になったのです。さすがに、時代のずれもあって、東西両雄が剣を交えることはなく、「安息長老」(おそらく、当方安息国の国主)が、漢人の知りたがる西の果ての世界に関してローマの風聞を提供したように見えます。

*西域都護班超と班固「漢書」
 改めて言う事もない推測ですが、甘英の西域探査行の詳細にわたる報告は、西域都護班超のもとから、後漢帝都の洛陽にもたらされたものと思われます。また、先に触れたように、班超は漢書を編纂した班固の実弟であり、当然、漢書西域伝の内容は、班超のもとに届いたと思われます。つまり、漢書西域伝は班超座右の書であり、西域都護にとって無駄な探査行など意図しなかったと見ます。

 恐らく、都督府の壁には「西域圖」なる絵図を掲げていたでしょう。(魚豢西戎伝が「西域旧圖」に言及しています)

*范曄「後漢書」の「残念」~余談/私見
 西域探査功労者甘英は、笵曄に「安息にすら行っていないのにホラ話を書いた」と非難され「條支海岸まで行きながら怖じ気づいて引き返した」と軍人として刑死に値する汚名を被っていますが「後漢紀」に依れば、班超が臨んだ「西海」は、メルブにほど近い「大海」、塩水湖「裏海」です。よって、魚豢「魏略西戎伝」でも明らかなように、甘英の長途征西は、笵曄の作文と見ます。

 因みに、魚豢「魏略」は、諸史料所引の佚文が大半であるため、信用されない傾向があるのですが、「魏略」西戎伝は、范曄同時代の裴松之が「三国志」に全篇追加したので、三国志本文と同様に確実に継承され、紹熙本/紹興本も、当然、その全容を伝えているので、今日でも、容易に読むことができます。(筑摩書房刊の正史「三国史」にも、当然、全文が翻訳収録されています)

*笵曄の限界と突破
 魚豢、陳寿は、曹魏、西晋で、後漢以来の帝都洛陽の公文書資料の山に接する権限がありましたが、笵曄は、西晋が崩壊した後の江南亡命政権東晋の官僚だったので、参照できたのは「諸家後漢書」など伝聞記事だったのです。諸家後漢書の中で出色の袁宏「後漢紀」は、ほぼ完本が継承されているので、容易に全文に触れることができ、部分訳とは言え、日本語訳も刊行されていて、原文を含めて確認することができます。

                               未完

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