新・私の本棚 番外 NHK特集「シルクロード第2部」第十四集~コーカサスを越えて~ 再掲 3/3
2021/02/03 追記 2021/04/15 補足 2021/11/26 2023/09/06
閑話休題
○ローマ金貨の行方
オアシス諸国だって「巨利」では負けてなかったはずで、二倍、三倍と重ねていたとすると、消費地ローマでの「価格」は、原産地中国の「原価」の一千倍でも不思議はありません。(世界共通通貨はなかったから、確認のしようはないのですが)
西の大国ローマは、富豪達の絹織物「爆買い」で、金貨の流出、枯渇を怖れたようですが、厖大なローマ金貨は、パルティア、ペルシャを筆頭に行程途中の諸国、諸勢力の金庫に消え、原産地中国に届いていません。
行程諸国が、山賊、掠奪国家の暴威も、死の砂漠も、ものともせず、東西交易を続けたわけです。何しろ、原産地と消費地が交易の鎖で繋がっていたから、さながら川の流れのように、ローマの富が絶えることなく、東に広く流れ下ったのです。
ローマ帝国は、後年、積年の復讐として、投石機などの強力な攻城兵器を擁した大軍で、メソボタミアに侵攻し、パルティア王城クテシフォンを破壊し国庫を掠奪して、度重なる敗戦の「憂さ晴らし」としたのです。
勝ち誇るローマ軍は、意気揚々と、当時の全世界最大と思える財宝を担いで凱旋し、一方、権力の源泉である財宝を失ったパルティア王家は、東方から興隆したペルシャ勢力(ササン朝)に王都を追い出されて、東方の安息国に引き下がったのです。
ローマは、地中海近くのナバテア王国を圧迫したときは、砂漠に浮かぶオアシス拠点、ペトラの「暴利」を我が物にするために「対抗する商都」を設けてペトラ経由の交通を遮断し、その財源を枯渇させましたが、イラン高原全土に諸公国を組織化していたパルティアの場合は、さすがに、代替国家を設けることはできず、また、いわば、黄金の卵を産み続ける鵞鳥は殺さず、太った鵞鳥を痛い目に遭わせるのにとどめたのです。
ローマ帝国は、賢明にも、『古代帝国アケメネス朝ペルシャを粉砕して、東西交易の利を確保しようとしなかったアレキサンドロスの「快刀乱麻」』は踏襲しなかったのです。結局、アレキサンドロス三世は、ペルシャ全土に緻密に構築された「集金機構」を壊しただけで、ギリシャ/マケドニア本位に組み替える事もせず、大王の死によって武力の奔流が絶えた後は、ペルシャ後継国家が台頭しただけであり、要は、鵞鳥が代替わりしただけでした。
◯まとめ
シルクロードは、巨大な「ビジネスモデル」です。
*補足
以上の記事の主旨を理解いただいていない読者があるようなので、若干補足します。
まず、NHK特集「シルクロード第2部」は、大昔の番組ですが、最近再放送があったので、目にする方が多いと見て、注釈を加えたのです。
「再放送」は、デジタル時代にあわせて、リマスターされたものの、内容は初回放送当時そのままであり、それ以来の時間経過を含めて、批判しておくべきと考えたものです。
また、この地帯の再度の取材による「新シルクロード」が制作されていますが、当然、ここで展開された歴史観は踏襲されていて、依然として、大変大きな影響力を示しているので、その意味でも批判が必要と見たのです。
以上の批判が今後のNHKの番組制作に反映するかどうかは、当ブログ筆者、当方の知るところではないのですが、いわば「サカナ」にして当方の愚見を披瀝したものです。もちろん、読者諸兄姉の熟知していることでしたら、読み飛ばして頂ければ結構です。
*第2部の偏倚
一番、不満なのは、第1部が、中国史料と中国現地取材が結びついた堅実な時代考証に基づいていたのに対して、第2部は、ロシア、中央アジア系と思われる西寄りの史料に傾倒していて、中国史料を棄てている点です。それが、特に顕著なのは、漢書、後漢書などに見られる「安息国」及びそれ以西の世界に関する考察が無い点であり、大変不満に思えるのです。
つまり、漢代中国史料の西域記事は、当時の中原から想像した、西の果てにある世界でさらにその西を見たおとぎ話が多く、あちこちに茶番めいた失態がありますが、この場で、それらの突き合わせをする事で、「ローマと漢を結んだ」「シルクロード」交易なる歴史浪漫の幻像が是正されると見たのですが、未だに満たされていないのです。
また、先立つ回で無造作に描写されているマーブ(Merv)要塞が、漢代、パルティア王国が、東の守りであり、二万の守備兵に、一時、一万のローマ兵捕虜が加わっていたという大変興味ある挿話に触れていないのは、大変、大変勿体ないのです。
何しろ、中国涼州付近の大勢力であった大月氏騎馬兵団が、新興の匈奴に駆逐されて西への逃亡の挙げ句、貴霜国を乗っ取り、さらに、西方の安息国に侵入して、国王親征軍を大破して莫大な財宝を奪った爪痕が広く遺されていて、安息国は、西方諸侯の後援を得て再興されたものの、以後、二万の大軍を常備して、東の盗賊国家貴霜国の奇襲に備えていたのです。
ローマ兵捕虜の由来は、不敗を誇っていた共和制ローマ軍が、三頭政治の一角であったクラッススを総帥とし、もう一人の三頭であるカエサルが援助した総勢四万人の必勝態勢で臨みながら、敵地での会戦で大敗して総帥を喪い、大軍の半ばを捕虜とされ、講和したもののローマ兵一万を戦時捕虜として貢献せざるを得なかったことは、ローマ史における屈辱の大事件であり、欧州史書に明記されているのですが、それについて何も触れていないのは、何とも、もったいないことだと思うのです。
何しろ、東方千数百㌔㍍の彼方に一万の捕虜を護送するのは、安息国が、交渉可能な文明大国であったことを物語っていて、ローマ兵も、いずれ、ローマ本国の雪辱戦によって送還されるものと信じて、服従したものとしたものと思われます。ところが、その後、共和制ローマは、三頭政治の崩壊で、ポンペイウスとカエサルの対決、内戦状態となり、勝者カエサルは、パルティア遠征軍を組織している段階で、暗殺の刃に倒れ、と言った具合で、ローマとパルティアの交渉/交戦が成立しなかったため、ローマ兵は、帰還できないまま、マーブの地で一生を終えたと言うことです。
なお、パルティア侵攻に踏み切れなかったローマは、地中海岸のシリアを属州化し、シリア総督の下に四万の兵を常駐し、パルティアを仮想敵としていたとのことですから、パルティアにとって、帝制に移行したローマは、巨大な仮想敵という事だったのでしょう。
また、兵士を主体に百人を要したと思われる漢武帝使節団が到達した「安息」は、安息国の西の王都でも無ければ、地域の居城であるカスビ海岸の旧都でもなく、マーブ要塞だったという事も取り上げる価値があったと思うのです。突然切り捨てられた中国史料の視点が、大変残念なのです。
確かに、当番組は、東西交易を隊商の駱駝の列が往来していたサラセン時代以降を主眼としているように見えますが、かたや、漢代シルクロード浪漫を言い立てているので、大変不満が募るのです。
*参考書
塩野七生 「ローマ人の物語」 三頭政治、カエサル、アウグストゥス、そして ネロ
司馬遷 史記「大宛伝」、班固 漢書「西域伝」、范曄 後漢書「西域伝」、魚豢「西戎伝」(陳寿「三国志」魏志 裴松之補追)、袁宏「後漢紀」
白鳥庫吉 全集「西域」
以上
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コメント
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等々力さんって、誰のことかな。
それにしても、ご冗談でしょう。これは、大昔の番組の再放送なのです。(40年は経っていますよ)
また、この一連の記事は、別にNHKを貶しているのではないのです。むしろ、偉業だと思っているので「残念」と言っているだけです。
しばらく曝しておいて、削除します。あしからず。
以上
>等々力さん
>
> 今のNHKは腐っていますね。本当に
投稿: ToYourDay | 2021年4月23日 (金) 23時41分
今のNHKは腐っていますね。本当に
投稿: 等々力 | 2021年4月23日 (金) 11時42分