私の本棚 長野正孝 鉄が解いた古代史の謎- 消されていた古代倭国 4/6
鉄が解いた古代史の謎- 消されていた古代倭国 長野正孝
*謎の鉄器文明
論者は、「運んだ鉄は戦いの後で発生した武器などの鉄くず」と称しているが、ここまで出回っていた「見てきたようなほら」であろう。そんな詳しいことは書かれていない。文意が取れない悪文である。
鉄鋼利器は、当時として大変な貴重品であるから、鉄鏃は、拾い集めて再利用するし、武器が欠けたら、鍛冶屋がたたき直すのである。全体を溶かして再成形など、厖大な労作で有るが、古来、街の鍛冶屋は、手軽に再生していたのである。
因みに、青銅製品は、たたき直すことができないが、比較的容易に溶かして鋳直すことができたから、廃材集め/再生ができたかも知れないが、鉄鋼製品はそう簡単には行かないのが、考古学の常識である/はずである。氏も、こと考古学に関しては、初学者なのだから、もっと謙虚に「勉強」されたらどうかと、衷心から思うのである。
いっぽう、鋼製品は、鋳物にできないし、そもそも、山出しの鉄材から、大変な技術無しには、鋼製品が得られないのである。氏に言わせると、本書は、「鋼」でなく「鉄」を論じているというのだろうが、そんな恥知らずなことは言うべくもないのである。
氏は、行きがかりからか、そのようにして得た「鉄くず」を、何者かが九州北部で鋼鉄製品に鍛冶したと言うが、何か根拠はあるのだろうか。ページ上半分になにやら真っ黒い図が貼り付けてあるが、どこでどのように発掘されどのように確認された物なのか書いていないから、場所塞ぎで無意味である。
続いて、「一つの大きな鉄器を三つに加工」とあるが、なんのことか、まるで理解できない。
どの程度を大きいというのかわからないが、鉄鏃を基準としているのだろうか。それぞれの「鉄器」には、その「鉄器」に託された機能があったはずであり、たとえば、一つの「鉄斧」を三つの「鉄斧」に増やす加工ができるとは思えない。
あるいは、「細かく裁断」と言うが、鉄器を、まるでカッターナイフで紙を切るように裁断できる刃物があったとは思えない。よい子は、口汚くのたくるのでなく、口を慎むものではないか。
加工して「付加価値」をつけるというが、当時、「付加価値」と言う概念はなかったから、程度の低い「時代錯誤」と言うしかない。まして、「さらに商い」と言うが、当時どのような商業活動をしたのか示されていないので、意味不明である。それにしても、「価値」は、買い手が見立てて、値付けするのではないか。時代錯誤の諸々は、もともと信頼性の無い氏の論考の値を下げているのでは無いか。負の「付加価値」と言うしゃれなのだろうか。迂遠すぎてついて行けないのである。
要は、現代の経済活動の用語を、それが、古代の鉄本位(?)経済に通用するかどうかお構いなしに、適当に書き殴っているのだが、それは、時代錯誤に過ぎず、意味を理解できない善良な読者は混乱する。氏や、身辺の飲み会仲間は、はやし立てるかもしれないが、世間一般に通用するには、ほど遠いと見える。
*時代錯誤の国際人説法
とどめとして、次の小見出しには失笑する。「国境なき国際人」は、どんなつもりで書いたのだろうか。当時の東夷倭人では、中国古代史で言う「国」は形成されていなかった。東夷伝の便宜上、大国、小国取り混ぜて「国」と称しているのである。
もちろん、現代感覚で言う「国境」は、全く存在しないのである。国家がないから、「国籍」も「国際」もない。論者が、自家製の現代概念にとりつかれて、時代錯誤の泥沼にどっぷり浸かっているのが見えるが、いくら「泥パック」がお肌に良いと説かれても、お相伴するのは、ご勘弁いただきたい。
最後のご奉仕で、もう少し批判を足す。
未完
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