新・私の本棚 正木裕 邪馬壹国の歴史学 8「短里」の成立と漢字の起源 1/2 三掲
ミネルヴァ書房 古田史学の会編 2016年3月刊 記2019/02/17 再掲2020/11/11 2024/02/06
私の見立て ★★★★☆ 重要
◯はじめに
本論は、論述が紆余曲折で判読困難なので大まかに書きましたが。粗略はないものと信じます。
8.「短里」の成立と漢字の起源
*礼記論
小見出しで「礼記」「礼記正義」に見る「古尺」と「周尺」と謳いだしながら、「古尺」と「周尺」が要領を得ません。どうも、原史料の解釈がずれているようです。「礼記」を見る限り、周尺は、古来の尺のままと書かれていて、氏の読みとずれているように見えます。
「古」は、周以前、殷代のことですが、それ自体、特に異論はありません。「古尺は一尺八寸、周は八尺一歩なので、一歩は、六十四寸です。礼記正義も、同様に書いています」と言い立てますが、要は、「周朝短里」が、国家制度として存在しなかったことになるのです。
晋書地理志に引用された司馬法にも、そのように明記されています。
*反転
ところが、氏は、「礼記」の疏に「十寸為尺」とあることを根拠に、以上の定義を無視して、この記述を優先するのです。何のために、礼記正義の本文を引用して解説していたのか、不可解です。明記されていないが、周代を通じて、変化があったとの見方のようです。しかし、肝心の「寸」の定義が欠けているから、「尺」が変わったのか変わらなかったのか不明です。「尺」は、日常参照されるので、原器を作るほどであり、「尺」を突然切り替えるのは、混乱、社会不安を煽るものと見えます。
それとは別に、発掘遺物から、殷尺は、周尺より二十㌫程度短いとされているものの、「尺」の物差遺物はあったが、「里」の物差遺物は存在しないようです。
*単位系混乱論
氏は、「古代中国では、丈、尺、寸の「手の系」と里、歩の「足の系」の二つの単位系が混在して、換算する必要が生じる」ことを理由に、両系の統一が行われたと見ていますが、何か勘違いしているようです。
「丈」は、山の高さにまで用いられて、千㍍を越えることもあり、詩的表現で「万丈の山」と謳われますが、それは、距離/道のりの単位の「里」とは別の単位系、云うならば「寸法」系です。例えば、山高を「里」ということはなかったのです。
両単位系のものを同じ用途に適用すれば当然混乱しますが、そのような用例は見かけません。つまり、それぞれの専門分野に籠もっていたので、混用/混同は発生せず、きれいに棲み分けていたのです。それが、古代文明に対する合理的な見方というものです。
*始皇帝度量衡統一の範囲
氏が語られるように、秦始皇帝は、度量衡統一を公布しましたが、自国などの周制逸脱で、「中国」全体の単位系が混在した(かも知れない)ものを、「周制に忠実であった秦制に統一した」の「ではない」と思われます。いや、そもそも、各国が、周制から勝手に逸脱したとは言い切れないのです。もともと統一されていた制度を、始皇帝の命によって確立したのかも知れません。
わからないことはわからないのです。
始皇帝の意図を、後世の東夷のものが拝察すると、それまで棲み分けていた単位系の一方を、強引に他方に合わせれば日常単位が大変混乱しますから、広大な帝国を一律支配するのが至上目的であった始皇帝は、そんなつまらないことはしなかったのです。
未完
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