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2024年2月26日 (月)

新・私の本棚 古田 武彦 「俾彌呼」 西域解釈への疑問 1/3

 ミネルヴァ日本評伝撰 ミネルヴァ書房 2011/9刊行   初出 2020/04/10 補充 2020/06/23 2024/02/26
 私の見立て ★★★★★ 豊穣の海、啓発の嶺

〇はじめに
 以下は、古代史における不朽の名著の裳裾の解れを言い立てているに過ぎません。多年に亘り広範な史料を渉猟し、雄大な構想のもとに展開された歴史観ですから、一介の素人は、その一部すら考証する力を有さず、たまたま、氏の学識の辺境に、思い違いを見つけて指摘するだけです。
 本記事は、単に、氏が陳寿の東夷観の由来と見た漢書西域観の勘違いを言うものです。

 いうまでもないと思いますが、巨大な山塊に蟻の穴があっても、山塊の堅固さに何の影響も無いように、ここに挙げた「突っ込み」は、氏の名著の価値をいささかも減じるものではありません。

 「余談」としたのは、氏の見解に関係しない勝手な余談論議です。

〇漢書西域観
 後漢の史官班固が編纂した漢書は、「西域伝」を設けて、高祖から王莽に至る歴代の西域交渉を、国別に、いわば小伝を立て、主要国については、小伝内に年代記として描いています。漢書「西域伝」の書法は、陳寿「三国志」のお手本であり、後世人も、大いに学ぶところがあるのは、言うまでもありません。

〇「東夷伝」序文考
 氏は、「東夷伝」序文を引用したあと、漢書「西域伝」の言として、「安息国長老」の言を漢書から引用しています。しかし、「東夷伝」序文に、魏代事績として再々奉献と列記された西域大国に「安息」の名はありません。ちぐはぐです。

 序文を少し戻ると、武帝が張騫を西域に派遣した結果、西域諸国との交通が開き、各国に百人規模の使節団を派遣して、服属ないしは通交を求めたため、得られた各国情報が漢書に記されたとしています。よくよく考えると、漢書に魏代記事があるはずは無く、陳寿の知識がどこから来たものか、一瞬戸惑います。東夷伝を見ると、当時、後漢代史官記録は、いまだ公式集成されていなかったと見えます。そんな状況で、「東夷伝」序文の出典として注目されるのが、末尾の魚豢「魏略」西戎伝です。
 劉宋史官裴松之が、陳寿「魏志」に全文を補注したのでわかるように、魚豢「魏略」は公式史書に準ずる権威が認められ、陳寿も、序文を書くに際して参照したと見られるのです。

〇印綬下賜談義 余談
 「通典」収録の漢代記録によると、漢朝は、反匈奴勢力拡大のためか、来朝使節の低位者にも印綬を下賜したと言います。ということは、漢朝を再興した後漢朝が、地域を代表する大国以外に、付随する小国にまで印綬を下賜した可能性はあり、その後継たる魏朝も、闊達に下賜したようです。
 というものの、陳寿が、「東夷伝」序文に挙げた魏代西域交流が事実なら、魏志特筆の大月氏への黄金印下賜は場違いです。漢武帝時代以来欠かさず遣使していたお馴染みが、長年ご無沙汰(絶)としていた後、忽然と洛陽に顔を出したのなら、本来過度の厚遇は不要です。

 総合すると、実は、序文記事は、史官として苦心の粉飾で、桓・霊以来、西域との音信不通、交通遮断の魏朝にとって、この来訪は干天慈雨だったのでしょうか。としても、さすがの陳寿も、この一件だけでは、魏志「西域伝」の書きようがなかったのでしょう。

*金か「金」か 余談
 多発されたのが、黄金の金印か青銅印か不明ですが、大半は、太古以来「金」と呼ばれていた青銅でしょう。皇帝付きの尚方工房は、大物も交えた精巧な青銅器を日々鋳造していたから、印面はともかく、四角四面の角棒に紐飾程度の作品は、茶飯事でしょう。材料は倉庫に山積みだったでしょうし。
 それはさておき、「陳寿は漢書を意識した」の段落には、これまで取り上げられなかった、魏略「西戎伝」の影響の再評価が必要です。何しろ、魏志「夷蕃伝」に対する裴松之付注、「裴注」の主力を成しているのですから。

                                未完

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