私の本棚 51 水野 祐「評釈 魏志倭人伝」 8/10 補充 改頁
雄山閣 新装版 2004年11月 (初版 1987年3月)
私の見立て★★★★☆ 『「倭人伝」は「唯一無二の史料』 2016/06/18 追記 2020/06/07 2021/07/17 2024/04/21
*加筆再掲の弁
最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。
*俗論の堰き止め
かたや、世上、いの一番に論議すべき事項をすっ飛ばして、外部資料の勝手な持ち込みで、頑迷極まる俗論が形成されたのは、かねて不満であったが、そのような俗論を堰き止めようとする水野氏の賢明な配慮が表れている。
*倭人伝事始め 「倭人在帶方東南」
・最初の躓き石(追記)
本書の最初のそして多分最大の躓き石は、「従郡至倭」に始まる行程記事の冒頭の「郡から狗邪韓国まで」(郡狗)行路の解釈の難点にある、と言うか、見落としにあるように思う。
氏の堅実な解釈手順にも拘わらず、「循海岸水行」が「従海岸水行」と字義の異なる別字と読み替えられ、そのために、郡狗行程は、半島「海岸」に沿った「沿海航行」とみなされ、氏は、史官がこれを「水行」と称したと早計にも断じているのは、まことに残念である。
氏は、在野の伝記類が同一文字の反復を避けて、同義の文字の言い換えを多用する点を想起して「循」に格別の意義を見ていないが、それ以外にも、史書行程記事における「従」は、必ずしも、何かに「沿って」の意味でないことが多いのを見過ごしているのは、やはり、氏の限界かと思う。
大原則として、正史記事では、まずは、一字一義と見るべきなのである。要するに、文字が違えば託された意味が違うのである。
古くは周に発し、承継した秦漢代以来の官道制度に、「海岸」沿いの「沿海航行」は存在しない。敢えて、正史の一条として構想された魏志「倭人伝」が、法外の行路を官道と制定したすれば、先だって諄諄と明記して裁可を仰ぐべきであるが、そのような手順が示されていない以上、法外の行程は書かれていないと見るのが、順当な解釈である。
氏の解釈は、日本古代史視点では順当に見えたのだろうが、中国史料解釈としては古典用例を取り違えた曲解の誹りを免れない。
当記事は、正史「三国志」魏志に書かれている以上、帯方郡に至る官道は、雒陽から漢武帝創設の楽浪郡に至る陸上官道の展延された官道を定義するものであり、「海岸」は陸上の土地であるから、もし、帯方郡から海上に出て船で南下するのであれば「乗船」の二字を要する。
*良港幻想
氏は、何らかの史料を根拠とされたのか、「半島西岸は、多くの大河が流入して良港が多く、沿岸航行が容易であったと見ている」が、同時代、現地の地理、交通事情を考察すると憶測と言わざるを得ない。
そもそも、半島西岸は、大河漢江が注ぐ漢城付近を最後として、南方の馬韓地域は、小白山地が後背に聳える狭隘な地域であり、多くの大河が存在するはずはない。大河と呼べそうなのは、小白山地の東、嶺東と呼ばれる広大な地域を南下する洛東江しかない。そして、洛東江は、対馬に向かうように、半島南岸の東端に河口を開いている。
未完
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