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2024年4月18日 (木)

新・私の本棚 日本の古代 1 「倭人の登場」 5 「倭人伝」の地名と人名 再掲

 中央公論社 単行本 1985年11月初版 中公文庫 1995年10月初版
 私の見立て ★★★★☆ 貴重な学術的成果  2020/01/15 追記再公開 2020/06/30 再掲 2024/04/18

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。

〇初めに
 本書の本章は、森博達氏の執筆であり、「倭人伝」に書かれている漢字地名、人名の発音を推定する際に「上代日本語」の発音を参考としたものです。
 安本美典氏の近著で、森氏の見解に言及しているので、急遽、趣旨確認したものです。

*概論

 森氏の以下の提言は、結論を急いだものでなく、適用範囲を限定している作業仮説です。案ずるに、科学的議論は、かくあるべきです。

*提言要約の試み

 「倭人伝」の地名と人名は、三世紀当時の「倭人語」の漢字表記であり、倭人と中国人の交流から、一定の発音規則に基づいて生成されたものです。

 ここで倭人語と対照可能な言語として、「文献によって音韻体系を窺い知ることのできる最古の日本語は、七~八世紀大和地方の言語で、これを上代日本語と呼ぶ」と明記の上で、倭人語と上代日本語の分析を進めています。

*上代日本語
 上代日本語は、文字通り上代の「日本語」であり、「日本」国家成立以前から同地域で話されていた言語ですが、同時代には文字記録、つまり、漢字の発音を利用して言葉を記録することができなかったため、後代、「日本」成立後、万葉仮名などの手法により文書に記載された資料から、上代日本語の発音を推定して、そこから、往時の音韻法則の大系を推定する研究が進んでいるということです。

*倭人語
 倭人語は、発音面で言うと、倭人伝で起用されている地名、国名、人名、官名などの漢字表記から推定されているものであり、古代中国語の発音に従うものと推定できるとして、限られた資料ですが、上代日本語と共通する音韻法則に従っている可能性が高いとみているのです。

*中国古代音韻
 現存資料で得られる中国語音韻は「切韻」に収録された中古音です。中古音は、魏晋代の音韻であり、秦漢代音韻は、中古音と必ずしも同様ではない上古音であり、私見では、中古音音韻から遡上推定されているようです。


 森氏は、倭人語は、上代日本語と同様の規則に従っているものと見ています。

*残された課題

 森氏は、倭人語発音の推定に、次のような課題が残っているとしています。
⑴ 「倭人伝」の地名・官名・人員はどの時代に音訳されたのか。
⑵ 先秦から魏晋まで、漢字音はどのように変遷したのか。
⑶ 音訳者(複数と考えられる)はどのような姿勢で音訳したのか。

 ⑶の音訳の「姿勢」は、別に、音訳者が正座していたかとか、寝そべっていたかという話ではなく、一つには、倭人語が中国側の当てはめによるのか、倭人側の提言によるのか、ということになります。つまり、「卑弥呼」が倭人語の中国語への音訳か、この漢字三字が起源の倭人語か、ということです。後者なら「卑弥呼」の発音は倭人語に馴染まない可能性があります。

*まとめ

 以下、森氏が明言していない「要旨」であり、先に述べた紹介とともに、文責は当ブログ記事筆者に帰します。
 お疑いの方は原書をご確認ください。


 「邪馬壹(臺)国」なる国名が、三世紀時点に倭人語から音訳されたのであれば中古音であり、倭人発音は、上代日本語に従う可能性が高いが、後漢書で漢代「初出」の国名なので、上古音の可能性があり、倭人発音は、上代日本語の規則に従わない可能性があります。また、帯方郡や楽浪郡の音訳であれば、「地域発音」の可能性もあります。

 ということで、森氏は、言語学という現代科学の求めに従い、法則としての妥当性とその限界を論じ、特定の国名、人名に関する断定は慎重に避けているのです。

*安本氏の見解
 安本美典氏は、著書で、森氏の提言を踏まえ、慎重に言葉を選んで、不用意な断言は避けているものと解します。
 この点は、別途書評する予定です。

                             この項完

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