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2024年4月22日 (月)

私の本棚 51 水野 祐「評釈 魏志倭人伝」10/10 補充 改頁

 雄山閣 新装版 2004年11月 (初版 1987年3月)
私の見立て★★★★☆ 『「倭人伝」は「唯一無二の史料』 2024/04/21

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。

◯見過ごされた提言
 本稿は、後日、氏の慧眼を賞する意味で追記したものである。

*「魏志倭人伝」狗奴国記事復原
 女王と不和でその氏神祭祀権威を認めなかった、つまり、氏神を異にする「異教徒」と見える狗奴国は、「絶」と思われ、女王国に通じていなかったと見えるので、「倭人伝」の狗奴国風俗記事は、正始魏使の後年、人材豊富な張政一行の取材結果と見るのが、水野氏の慧眼であり、納得できる卓見である。
 水野氏は、「其南有狗奴國」に始まる記事は、亜熱帯・南方勢力狗奴国の紹介と明快である。一考に値する慧眼・卓見と思われる。

其南有狗奴國。男子爲王、其官有狗古智卑狗、不屬女王。[中略]男子無大小皆黥面文身。[中略]計其道里當在會稽東治之東。[中略]男子皆露紒以木綿招頭。[中略]種禾稻、紵麻、蠶桑[中略]所有無、與儋耳朱崖同。
 「其南有狗奴國」から「儋耳朱崖」は、南方狗奴国の詳解と解する方が自然である。
 ただし、「自郡至女王國萬二千餘里」は、場違いで衍入である。

 「会稽東治」も「儋耳朱崖」も、狗奴国記事であるから、陳寿の女王国道里地理観と、別儀である。
 して見ると、この部分は、報告者が異なると見える。正始魏使以後、張政が、女王国と狗奴国を調停した際の取材と見える。

*本来の「倭記事」推定
 つづく[倭地溫暖]に始まる以下の記事は、冬季寒冷の韓地に比べて温暖であるが亜熱帯とまでは行かない「女王国」紹介記事と見える。
倭地溫暖、冬夏食生菜、皆徒跣。[中略]其死、有棺無槨、封土作冢。[中略]已葬、舉家詣水中澡浴、以如練沐。[中略]出真珠、青玉。[中略]有薑、橘、椒、蘘荷、不知以爲滋味。[中略]自女王國以北特置一大率[中略]皆臨津搜露傳送文書賜遺之物[中略]倭國亂相攻伐歷年乃共立一女子爲王。名曰卑彌呼。事鬼道能惑衆。年已長大。無夫婿。[中略]女王國東渡海千餘里復有國皆倭種。[中略]參問倭地絕在海中洲㠀之上或絕或連周旋可五千餘里。

 「邪馬壹国」が、伊都国の直下に隣接していると見れば、「女王国」紹介記事の気候風俗は、伊都國、邪馬壹国に共通すると見える。
 俗説のように、「邪馬壹国」が「伊都国」の遠隔地とすると、「女王国」紹介記事は、まことに不可解となる。纏向は、とても「温暖」とは言えないし、飛鳥地区は、更に、冬季寒冷である。とても「伊都国」と同一視できないのは、素人目にも、明らかなのである。

 ついでに言うと、山中にある寒冷な纏向が、会稽の東方に位置しているとか、南海の儋耳朱崖に産物が似ているとか、思いつくはずがないのである。

*本項結論
 要するに、「倭人伝」には、狗奴国は女王国の南方の温暖の地と「明記」されている。「北暖南冷」の奈良盆地とは、えらい違いである。

*未完成の弁
 以上のように、「倭人伝」道里行程記事批判の範囲止まりで頓挫している。どうも、本書に個人的書評は成立しがたいようである。前途遼遠。

 正直なところ、本書で滔々と展開された「史料批判」が、世上顧みられることなく、野に埋もれたままになっているのに呆れたこともある。
 凡そ、学術上の論議は、先行所説の批判と克服を踏まえて自説を提言することでのみ前進するものと思うのだが、古代史分野では、「黙殺」路線が大勢を占めていて、当分野の新参、素人は、困惑しているのである。

                                以上

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