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2024年5月 9日 (木)

毎日新聞 歴史の鍵穴 意図不明な「宗達」新説紹介記事 補足 三掲

 私の見立て☆☆☆☆☆               2016/06/17 2024/04/30, 05/09
 今回は、当ブログ筆者が毎月躓いている毎日新聞夕刊文化面の月一記事である「歴史の鍵穴」の6月分記事に対する批判記事の補足である。

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。

◯始めに
 前回記事は、いきなり、切り口上で、麗々しく題した「風神雷神屏風」の意味として、「日本美術史研究家の近刊書籍の打ち出した新説を紹介している記事のようである。」と書きだして、自分なりに「専門編集委員」の作品として出来がまずいと思われる点を率直に指摘したものであり、ここまでのところ、撤回すべき内容は見つかっていない。

*補足の弁
 ここで、補足したいのは、「林進氏の新説が明確に提示されていない」と批判した点であるが、読み直してみると、冒頭部分に、一応書かれていることに気付いたので、明確でないと感じた背景を以下に述べるものである。
 そのためには、当該部分を忠実に引用する必要があるので、出典を明示したうえで引用させていただく。この点、著作権者の了解をいただけるものと確信している。

 「江戸初期の絵師、(生没年未詳)の傑作「風神雷神図屏風(びょうぶ)」(京都・建仁寺蔵)は、学者で書家、貿易商だった角倉素庵(すみのくらそあん)(1571〜1632)の供養のために描かれた追善画だった。大手前大学非常勤講師の日本美術史研究家、林進さんが史料に基づいて通説を見直し、近著『宗達絵画の解釈学』(敬文舎)でこんな新説を打ち出した。」

 これでは、字数が多く、紙面では8行+1字の長文の上、必要な説明とはいえ、大量の説明やかっこ書きが割り込んでいて、文の主題が目に入りにくいのである。と早合点の咎の言い訳をさせていただく。
 とはいえ、批判するだけでは、改善の手掛かりにならないので、素人なりの再構成を試みた。
 引用ならぬ粉飾
 俵屋宗達の代表作とされる「風神雷神図」は、京都・建仁寺所蔵の国宝として有名である。その制作動機として、通説では、京都の豪商が、臨済宗妙光寺に対して、その再興の際に寄贈するため製作を依頼したとされている。また、現在所蔵している建仁寺は、妙光寺の上位寺院であり、いずれかの時点で上納されたものと推定されている。
 日本美術史研究家 林進氏(大手前大学非常勤講師)は、近著『宗達絵画の解釈学』(敬文舎)で、近年公開された資料を基に「風神雷神図」の独特の構成、彩色を新たな視点から分析し、宗達は、芸術上の盟友であった角倉素庵の追善画として制作したとの仮説を提示している。
 *角倉素庵(すみのくらそあん)(1571〜1632)は、江戸時代初期の貿易商であり、のちに隠居して、学者となった。書道では、本阿弥光悦に師事したが、自身で角倉流を創始するほどの高名な能書家であった。

 こう切り出して、興味を書き立てられた読者に、以下の記事を書き続けるのだが、基本的に、通説と新説を対比し、新説の根拠を明快に提示するものではないかと思う。いくら優れた学説であっても、紹介者として、疑問に思う点があるはずであり、それは、率直に書くべきである。

 例えば、上にあげた改善例では通説とされている制作動機に触れているが、この説に従うと、少なくとも、当初、妙興寺方面からの製作依頼、つまり、多額の資金提供/手付金が契機になって屏風として制作されたという経緯、および、現在の建仁寺に所蔵されに至った経緯が、滑らかに説明されている。記事に紹介されていないが、林氏も、この点は否定していないことと思う。
 つまり、新説の趣旨は、通説の否定/克服ではなく、宗達が、制作依頼に応じて屏風を制作する際に、追善の思いを込めたというべきではないだろうか。

 ついでながら、角倉素庵の極度の窮乏は納得しがたいので、以下に書き留めると、五十歳を目前にして家業を長男に譲り、ついで、資産すべてを次男をはじめとした親族に譲り渡して、完全に隠棲に入ったとはいえ、「嗣いだ家業が繁栄している実子二人が、重病に苦しんでいる実父を見捨てて、無一文の困窮状態に放置した」とするのは、どんなものか。親が放蕩息子を勘当して縁を切ることはあっても、子が親と縁を切る法はないはずである。

 まして、長男は玄紀(京角倉家)、次男は厳昭(嵯峨角倉家)と、それぞれ、立派に家業を継いで、社会的にその地位を認められているから、最低限の親孝行として最低限の支援はしたはずである。直接の支援を拒絶されたとしても、宗達を介した出版支援など、陰ながらの支援をしなかったとは信じられない。

 今回の新説の補強を要するポイントは、宗達が、素庵にそれほどの哀悼の念を抱いた背景の推察であろう。
 素人考えでは、素庵は、自身とほぼ同年、つまり初老の宗達が、ともすれば、扇子製作の分業の中の一介の「絵師」職人として埋もれていたところを、自身の書家としての高名を生かした共作により、世評に上るように引き立てたものと思う。
 素庵との共作により、芸術家「絵師」として世に広く知られることになり、ついには、朝廷から「法橋」の称号を得て、多くの大作を製作する機会を得たことについて、とても返礼できない恩義を感じていたのではないか。

 念のためいうと、当ブログ筆者は、世間並みの好奇心と知識を持っているだけであり、以上の議論は、当記事を書き綴る傍ら、Wikipediaを購読してた得たにわか作りの知識を基に、つらつらと推察したものに過ぎない。
 せめて、こうした考察が付け加えられていなければ、学説紹介にならないのではないか。毎日新聞の専門編集委員に求められるのは、その令名に相応しい充実した記事ではないかと思うのである。

 毎度のことであるが、当ブログ筆者は、毎日新聞の編集長でも何でもない。素人の放言だから、別に気にすべきものでもない。ただし、毎日新聞の紙面にこうした記事を公開し続けることは、毎日新聞に対しても、記事筆者に対しても、「品格」の低下を感じさせてしまうのではないかと危惧しているのである。

 因みに、素庵の遁世の原因は「ハンセン病」罹患のせいと語られているが、当時「業病」として忌み嫌われていたというものの、記事の主題との関係の深いものではないから、中途半端に病名を出すより「難病」程度にとどめたほうがいいのではないか。読者が詳しく調べたければ、自力で調べればいいのである。

以上

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