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2024年5月24日 (金)

新・私の本棚 水林 彪 「漢武帝・宣帝の半島・列島支配 3/6 再構成

中国古代帝国主義の東夷支配:その始まり」 『纒向学の最前線』 「纒向学研究」 第10号
桜井市纒向学研究センター「センター設立10周年記念論集」 2022/7 
私の見立て ★★★☆☆ 未完の大器 瑕疵幾度  2024/05/13, 05/17, 06/17

*場違いの引用
 ここで、以下の断言が登場して、読者は、突然、水林氏の中国正史一括断罪に加担するかどうか、身を引き締めざるを得ないのです。なにしろ、このような「神がかり」を、検証無しに受け入れると申告した覚えはないのです。「纒向学研究」の忠実な読者は、ここまでに、水林氏に対して終生不変の忠誠を誓っているのでしょうが、当論考は、資格限定のない一般研究者に定して開放されているので、異論を唱えることは、許されるとみているものです。
 中国正史夷狄伝は儒教的中華思想を展開する場であるから、権力を背景とする朝貢命令のことは意図的に隠蔽し、朝貢が自発的なものであったかのように書くことを常とする。中国正史の記述を真に受けてはならない (渡邊義浩 46頁以下・167頁以下参照)2012『魏志倭人伝の謎を解く』 中公新書

*原文確認
 ことは、渡邊義浩氏が、当該著書で開示したと見える「託宣」ですから、一般人読者としては、折角の原資料、渡邊義浩 2012『魏志倭人伝の謎を解く』の引用位置を参考に、当該部の史料批判を試みます。
1.「46頁以下」
 同書では、「唯一の夷狄伝」と題されていますが、これは、先行して明記されている三国志唯一の夷狄伝「烏丸・鮮卑・東夷伝」と順当に解されます。当方は、無学無教養で、正史列伝の件数の数え方に通じていないので、お説に従います。
 渡邊氏は、「史学と儒教」として論議を進めていますが、実際は、「三国志」に先立つ、司馬遷「史記」、班固「漢書」の史書としての精確さを論じていて、不思議なことに「史記」の記事で、殷(商)の王位継承や殷墟の位置がほぼ正確に記録されていることを論拠として「史記」が正確であると証し「三国志」が、曹操の墓の位置が正確に記録されているという未検証の推定を述べた後、『「三国志」も正確な部分は正確である』と述懐されていて、筋の通らない意見になっています。
 「史記」は、多くの部分で伝承/風聞/果ては、巷間で演じられていたと見える在来戯作に依存した「物語」であることは衆知であり、一方、殷(商)の王位継承や殷墟の位置は、そうした「物語」でなく、「史実」の記録、つまり、殷代文書の承継であるから、正確なのは、原史料が正確だったと云うだけです。後段で、「史記」の大部分を占める「物語」に対しては、民間で流布していた「史劇」、「講談」の類いを収録していたと述べていて、前に述べた「史記」評価は、例外部分に過ぎないとみえます。
 渡邊氏は、「三国志」の記事も、陳寿が「史料」承継に務めた部分は正確であると誠に当然の総括です。陳寿編纂「魏志」の「本紀」、「列伝」部分は、西晋首都雒陽の公文書庫由来の「史実」の忠実な収録でしょう。これは、三国志注解を公刊されている渡邉氏には「釈迦に説法」でしょうが、氏は、何等かの意図で、その当然な見解を糊塗していると見えるのです。

 さて、ここで、渡邉氏が「魏志」夷狄伝全般に糊塗している「儒教的論理」は、まことに迂遠であって、「魏志」「本紀」、「列伝」は、史実、つまり、公文書記録の正確な承継であって正確であり、「夷狄伝」は、例外的に陳寿の恣意の割愛や改変によって正確さを喪っているとしているのです。水林氏は、渡邊氏の論考のこの部分を先行する文脈から隔離して「読み囓って」、前に引用した意見をとりだしたようですが、それが、渡邊氏の本意かどうか不確かと言わざるを得ません。

 渡邉氏は、ことのついでに、典型的な史官とされている班固「漢書」すら「列伝の一例で儒教擁護の圧力に屈して史実を改竄している」と非難した筆の勢いで、陳寿「魏志」も夷狄伝に於いて「当然」筆を曲げていると弾劾しているのですが、素人としては、「それは渡邊氏の意見でしょう」と呟くしかないのです。何しろ、後漢朝史官たる班固にとって、何が真っ直ぐであったかわからないでは、漢書が曲がったか曲がってないか、どうすれば、真っ直ぐになるのか理解できないのです。

 渡邉氏は、そこまで物々しく、司馬遷「史記」、班固「漢書」なる、それこそ巨峰の如く聳え立つ大部の二大正史について、高々とした視点から言い募った挙げ句、突然、至近の「魏志」論の局地的な論議に舞い下り、『陳寿「魏志」夷狄伝が「西域伝」を欠いているのは、「蜀漢が西域との交通を支配していて、曹魏の西域支配を妨げていた」と示すことを憚った』ためだと断じているのですが、素人目には、それが儒教原理に屈した」とは、とても見えません。

 以下、渡邊氏は、裴松之が「魏志」に補注した魚豢「魏略」「西戎伝」を評して、『充分「魏志」西域伝とするに足る内容があるのに採用しなかったのは、曲筆である』と断じていますが、これは、氏にしては軽率な評価とみえます。
 何しろ、氏は、三世紀の史官ではないので、魚豢「魏略」「西戎伝」のテキストを魏志「西域伝」として収録すべきかどうか、職掌として判断する見識も権限もない二千年後生の無教養な東夷の一員なのですから、論拠を求めるのであれば、素人にもわかるように、魏志「西域伝」の復原を試みて、東夷と対比できるる傑物であると証していただきたいものです。論より証拠です。
 氏ほどの高潔な歴史学者が、史料に根拠を確保できない独断を公表するのは、もったいないことです。

                                未完

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