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2024年5月 9日 (木)

新・私の本棚 出野 正 張 莉 「魏志倭人伝を漢文から読み解く」 ⑵ 1/1

「倭人論・行程論の真実」 明石書店 2022年11月刊
 私の見立て ★★★★☆ 待望の新作 不用意な記述 2023/08/14 2024/05/09

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。

◯第二章『「魏志」「倭人伝」の「倭人」とはなにか』(出野)
 異議あり:氏の日本語語彙が古代史論の標準から離脱しているのは困ったものである。
1.カタカナ語偏愛「もとのルーツ」 27ページ
   氏のカタカナ語愛好癖が不適切である。「論衡」「漢書」「倭人」の「もとのルーツは同じ」に困惑する。何の因果で奴隷制度を誹った「ルーツ」の義憤を踏みにじるのか。平明に「起源は同じ」と言わない屈折用語に、編集担当から「朱」が入らなかったのが不可解である。

2.生煮えの現代語「差別化」 57ページなど
   現代造語は意味不明になる。「差別化」乱射があって、整備されたと期待された公道に「躓き石」の散乱に困惑する。人種差別と無関係な無邪気な造語と思うが、正統的な言葉に置き換えてほしいものである。

3.不明瞭な集団評価 57ページ
   「日本の歴史学者」なる集団を、実際に世論調査した上か、『魏志の「倭」と「倭人」を同一視する人が「多い」』とするが、「多い」とは多数派なのか、一人でも多いのか、意味が通らない。7行を費やしたあげく、『「多くの歴史学者」は論証なしに自明の理としている』と自説の塹壕に逃げ込んでいると見える。
 氏は、以下、面々と「倭」と「倭人」が、同一の概念では無いと主張しているが、皮切りに冗語を連ねているので、 冷徹な指摘と見えても、信を置きがたい。

4.資料乱獲~悉皆の悪弊
   氏は、古代史「国」の意義を、確固たる「倭人伝」で足りず、茫漠たる「三国史記」、「三国遺事」で総浚えする。先賢によれば「倭人伝」すら、用語、文法の異同で複数史料に依拠した史書と評されるのであるから、隔絶文書導入は無謀である。

5.浅薄な前例批判
   氏は、古田氏等の語義解釈を「国語」「和風」と揶揄するが、古田氏は、「倭人伝」以外の資料も幅広く渉猟し、確実に史料批判しているので、氏の批判は、むしろ安直と見える。
   氏は、既に先賢諸説を雑駁に捉えて『差別化』と処断しているが、自分好みの新語で批判するのは不合理と見える。ご自愛いただきたい。
   重複するが、浅学ながら『差別化』は、『敵の短所に対して自説を盛り上げ「消費者」を「惑わす」舌先三寸の技芸』と見え、氏の使うべき言葉でないと愚考する。くれぐれも、ご自愛いただきたい。

*古代史用語談義
 言うまでもないが、「倭」と「倭人」は、異なった単語であり、恐らく、太古の「倭」が、時代の推移で二字語になったとも見えるが、不明瞭である。つまり、太古の中原諸国名は、春秋/戦国時代の「中山国」を例外として、全て一字のように見える。(「中山国」が、蛮夷の者という風評が立つくらいである)
 それが、秦始皇帝の天下統一の後世、二字の国名が増えるのは、要するに、座りのよい文字が払底したとも見えるが、東夷で云えば、韓、濊、倭が、不遜な一字である。但し、公式文書に名を連ねる際、二字の方が望ましいという事で「倭」を「倭人」と書いた可能性もある。
 但し、隣り合う「韓」は、戦国「韓」に由来しているという事で、「韓国」、「韓人」の二字国名を免れたとも見える。
 太古から秦漢、魏晋まで、歳月の経過とともに、世界観が変わっているので、二千年後生の無教養な東夷の理解を越えているようである。

 「國」は、太古、隔壁聚落を言い、次第に経済活動拡大と共に、「國」が融合して戦国時代、諸侯領域は「邦」となったが、漢高祖実名「邦」を僻諱して「國」とした際、太古の「國」を「國邑」としたと見える。時代によって文字/単語の意味は忽然と変化する。
 陳寿は、史官として太古先哲用語を学んだので、時代錯誤となりかねない「國」の氾濫は抑えたが、原史料の「國」を書き換えることは許されなかったと見える。
 案ずるに、漢代郡国制の「國」は、劉氏一族所領であり、高官郡太守は「王」と同格であるが、「倭人伝」に限らず蛮夷の「國」が蔓延したことから、史官は、漢魏本国の「國」と同格と取られないように文飾に努めたと見える。世間には、卑弥呼が「倭王」に任じられ、「倭」は帯方「郡」太守と同格と見る人までいるので釘を刺す。時の遼東郡太守公孫淵は「燕王」と自称したが、それは、曹魏の創業者魏武と尊称された曹操が最後に到達した「魏王」と同格の至高の地位を自認していたのであるから、郡太守は「王」と同格などではないのである。
 また、氏は、無頓着に「国名」と言うが、これも、自称であれば不穏な「僭称」である。

 倭使難升米は、「大夫」と自称したが、倭は、景初以前は魏に臣従したものでなく、また、蛮夷が臣従を認められても、魏官位「大夫」など、もっての外であるが、鴻臚の慣わしで蛮夷の自称がありのままに記述されたと見える。
 魏制に通じた後、官位詐称を已め「倭大夫率善中将」と、魏朝官位に存在しないことが明らかである「蛮夷官位」を名乗りつつ、通常は、縮して「倭大率」さらに「一大率」と称したと見える。(断然たる私見であるから、先例検索は無駄である)

*「大率」私考 2024/05/09
 ちなみに、班固「漢書」「百官公卿表」に「県大率方百里」とあるが、何しろ、「漢書」は、代々史官を務めていた専門家である班固が太古以来の史書書法を駆使しているので、史官の訓練を受けた陳寿は理解していたかもしれないが、二千年後生の無教養な東夷には、何とも、真意が判断できない。
 気軽に言うと、「郡」の下位である「県」は、「方百里」を「大率」、つまり「広く支配する」と読めそうなのだが、支配する「方百里」が管轄地域の広さなのか、「県」の下部組織「郷」(複数)を束ねるという概念なのか、判然としないようである。
 素人考えでは、「一大率」は、矢張り「倭大率」、つまり、「倭に属する複数の(小)国を広く支配する」の意味と解したいところである。

◯まとめ
 と言う事で、出野氏には中国史書の「沼」に浸かって脱「和臭」をお勧めする。氏は、最高の漢字学者の助言を随時得られるのであるから、国内通説/俗説に惑わされないことを期待するのである。

                               本項完

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