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2024年5月24日 (金)

新・私の本棚 水林 彪 「漢武帝・宣帝の半島・列島支配 5/6 再構成

中国古代帝国主義の東夷支配:その始まり」 『纒向学の最前線』 「纒向学研究」 第10号
桜井市纒向学研究センター「センター設立10周年記念論集」 2022/7 
私の見立て ★★★☆☆ 未完の大器 瑕疵幾度  2024/05/13, 05/17, 06/17

2.「167頁以下」(承前)
 4「鋭敏な国際感覚」は、景初倭使参上の考察ですが、世上、帯方郡から遠隔の「倭人」女王が、公孫氏滅亡に即応して帯方郡に倭使を派遣したことを、女王の「鋭敏な国際感覚」の功名と見るのに対して、これは「帯方郡太守の迅速な招請、督励の功績」であるとの裁定は、渡邉氏の慧眼/比類なき卓見と思われます。
 但し、引き続いて、招請に即応したのは、女王の治世が、中国の国家制度を学んで「当時の辺境東夷が先進の国家体制を有していた」と読み解いていらっしゃるのですが、これは、「魏志倭人伝」の真意を見逃したものと見えます。当時、半島東南部、後世新羅が出た「嶺東」地域以南は「荒れ地」の境地でした。漢武帝が、朝鮮討伐後に朝鮮の支配地域を管轄するものとして四郡を置いたとしているのですが、この地域は、際付きの「荒れ地」であり、三世紀に至っても「荒れ地」であったと明記されているのですから、漢制の最高峰に位置する郡太守を任じて、高額の俸給(粟)を給付しようにも、地域に水田稲作を展開する素地はなく、つまり、朝鮮時代以来、耕地を割り当てられる「戸」はなく、朝鮮王の居処であった王険城にいたる官道は存在せず、要するに「郡」の構築が不可能であったことは明確であり、
 さらに従って、郡/県が設けられることはなく、従って、数世紀を経た後漢献帝建安年間にも、無法の「荒れ地」であったから、ことさら、地域振興のために、公孫氏が帯方郡を設けたと見えるのです。その結果、景初年間には、韓国南境である狗邪韓国から帯方郡治に至る官道が整備されていて、ともあれ郡の体を成したようですが、そこは、あくまで「韓国」であり帯方郡管轄下の地方組織である縣や郷は設けられていないように見受けます。つまり、漢武帝時代以来、当該地域には、漢の制度は及んでいなかったと判断されるのです。
 遼東郡太守であった公孫氏の「治世」は、当然、「法と秩序」に基づく文書行政であったことから、管理に伴う公文書が蓄積されていたものであり、公孫氏自体は、司馬懿の撲滅によって、配下の官吏と公文書もろとも、灰塵に帰したと見られますが、実務を行っていた樂浪、帯方両郡は、景初年間早々に、曹魏明帝の特命によって、密かに、つまり、平和裏に官吏と公文書を温存したままで皇帝直轄郡への変換が行われたため、郡公文書は健在であり、公孫氏統轄時代の帯方郡の東夷管理の実務は確認されたと見えます。
 「倭人」の境地には「牛馬がいない」ことから、『「街道」制度が未整備である』、『「戸籍」「地籍」が文書未整備』、さらには、『銅銭流通無し』であって『遠隔「徴税」できない』、『国邑が隔壁防御無し』、風俗は『衣服が非礼』『食事は非加熱生食で非礼』等、中原文化不適合の蛮夷であって、とどめとして「中國文字を知らないので先哲の書を読めない」との欠格要件も事実上明記されています。陳寿には、「倭人」に阿(おもね)り筆を踊らせる動機は、全く無かったのです。
 以上、素人の無軽薄な考察を提供したのは、渡邊氏があえて表明していない時代認識を呈示して、ご高評を仰いだものであり、「釈迦に説法」の愚考であることは、了解しているものです。

 渡邊氏は、軽薄な陳寿批判の「現代日本人論客」とは当然格別の論者ですが、新書版解説書に於いては、そのような「現代日本人論客」に席を並べて、調子を合わせていると懸念されます。御不快でしょうが、無用の誤解を防ぐために、敬意の最大の表現として率直な苦言を述べているのです。

*「不可解」の弁
 水林氏程の大家が、なぜ、世上麗名の高い渡邉氏の山成す著書から一般向け新書本を選び、そこに展開されている陳寿「三国志」魏志論の渦巻く中から、どんな読み方で、由来不明の「中国正史の記述を真に受けてはならない」なる「神託」「神がかり」を取り出されたのか不可解です。所詮、新書版の好む軽快で非学術的な発言内容ですから、もともと、有り難がるのは不適切なのです。

 水林氏の本論考は、掲題のごとく「漢武帝・宣帝の半島・列島支配」の論証ですが、同新書は「魏志倭人伝」論考であり、二十四史なる全「正史」の一史、陳寿「三国志」魏志第三十巻の末尾一条に専念しているのは自明です。なぜ、端から明らかに見当違いの本新書に、「纏向学研究」誌の精華たる玉稿の論拠を求めたのか不可解です。また、以上のように、出典新書の特定された箇所を精読しましたが、素人読者には、そのような文脈は読み取れず、水林氏の聞きかじり、食いかじりで、原文の文脈から切り離されて生成された文言が「ご神託」と珍重されているのではないかと危惧されます。水林氏は、群鳩の中の俊鷹(A Hawk among the Pigeons)に気づいていないのでないか、と言うと、失礼に当たるのでしょうか。
 按ずるに、渡邉氏は「倭人伝」編纂の内実を熟知していながら、正史全体の編纂において広く述べて「明言」しているものでしょうから、せいぜい、不適切な解読に過ぎず、本稿は考古学論考ですから、水林氏は、暴風雨に借り物の日傘を差しているようなものです。水林氏のためにも、渡邉氏のためにも、このような「誤解」引用を惜しむものです。

                                未完

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