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2024年7月17日 (水)

新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 5/8

「魏志東夷伝から邪馬台国を読み解こう」(海鳥社)2015年2月刊 
私の見立て ★★★★★ 総論絶賛、細瑾指摘のみ 2024/06/23, 07/17

5.対海国、一大国の「方里」談議~詳細後出
 氏は、両国に附された「方◯◯里」を魏使/郡使の踏査測量由来と見ていますが両島道里は渡海水行千里と早々に確定していて、後日踏査測量したとは見えません。「方里」が幾何学的判断とするのは早計と思われます。
 未知の東夷に到る行程がどのようであっても、高貴な読者が容易に理解できるように明解に分別するのが、史官の務めと見えるのですが、とかく、「乱」を求める方が多いようです。
 なお、三度の渡海それぞれ千里と切りの良い千里単位の道里に百里桁の端数を付け足すのは無効です。
 両島「方里」は、「道里」では誤算/邪魔物です。
 両島「方里」は、現代地図から見てとれて、俗耳に好まれますが、韓伝「方七千里」と同様一次元「道里」と別次元で、合算するのは不合理の極みです。

 表Ⅴ―2は、狗邪韓国から末羅国までの「水行」三千里のはずが、郡から狗邪韓国の迂回水行七千里を含め計万里と不都合です。一方、㋐㋑㋒の陸行、ありえない隠れ「水行」を、無法に勘定したとしても、陸行が不足して、到底一月とみえず不穏です。

 本項で言うと、㋐㋑㋒の陸行は、無意味と断定されます。

 この程度の齟齬は、一瞥で見て取れると思いますが、氏は、古田武彦氏の論議の手触りの良いところだけ取り上げているようにも見えます。

6.「水行」「陸行」仕分け/分別について
 氏は、几帳面に行程を切り分け、「水行十日陸行一月(三十日)」の明細を論じていますが、「倭人伝」は、郡治から王治の所要日数初出であり、読者の教養/見識を考慮として煩瑣を避け、明快に分別されていたものと思われます。

 氏は、表中に当時存在しなかった算用多桁数字、小数、SI単位を避け最低限の有効数字としましたが「千里」単位概数との明示が賢明と思われます。
 小論では、「陸行」第一段階が、郡から狗邪韓国まで七[千]里「水行」第二段階が、狗邪韓国から末羅国まで三[千]里「陸行」第三段階が、末羅国から「陸行」と書いた後、伊都国まで(地理、道路状況、牛馬の有無が不明)の倭地 二[千]里の三段階、計[万]二[千]里としています。
 水行三千里、陸行九千里と明快です。

*郡倭「万二千里」の起源
 これは、行程の実際の道里と関係無く、後漢献帝建安年間に公孫氏が最初に「倭人」を東夷として受け入れた際に、遠隔地として郡治から王治まで万二千里としたものであり、景初二年に曹魏明帝が楽浪/帯方郡を「密かに」接収し、道里を(誤解)承認したおかげで、明帝遺詔とされたものです。

 辻褄合わせで、「郡から狗邪韓国は七千里、狗邪韓国から末羅国は三千里」と按分されましたが、郡倭万二千里の残渣である末羅国から陸行の倭地二千里の「距離観」は不明瞭です。所詮、千里、二千里刻みで計数教育された官人は、概数帳尻は問えないと了解していたと見えます。

 結局確認できたのは、一度明帝が公布した「万二千里」の綸言は、遺詔とあって、遂に是正できなかったという台所事情です。

 「倭人伝」に、実務に即した「都(都合)水行十日陸行一月(三十日)」が追記されました。日数明細はないが、それぞれ一日三百里と見て陸行九千里は三十日、水行三千里は十日と読者に検算できる大雑把な辻褄合わせでした。

 ちなみに、郡から狗邪韓国までは、騎馬移動/馬車移動の宿場完備の官道ですが、末盧国上陸以降は、牛馬のない未整備「禽鹿径」で「詳細不明」であり、倭地の二千里は、道里から所要日数を見当がつけられません。

 おそらく、公孫氏に身上を示した時点では、末盧以降は不明であったと思われます。見当がつけられない行程は、本来、「倭人伝」に書く必要もなかったのです。

                                未完

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