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2024年7月17日 (水)

新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 2/8

「魏志東夷伝から邪馬台国を読み解こう」(海鳥社)2015年2月刊 
私の見立て ★★★★★ 総論絶賛、細瑾指摘のみ 2024/06/23, 07/17

*異論の展開
 以下、氏の論考に異論を述べますが、批判的な意見に、氏が同意されるか反対されるかは、氏の意向次第です。氏は、私の息子でも孫でもなく、私の言うことを聞く義務はありません。わらべ唄で言う「ほっちっち」です。
 ともあれ、異論の背景として、以下の論点で、氏と意見を異にすることを明言しておきます。文体が、断定的なのは時の勢いで、他意はありません。

1.「倭人伝」道里記事の由来について
 榊原氏は、倭人伝に展開されている道里行程記事が、正始年間に倭に派遣された使節(正史遣倭使)の紀行文に基づくと見ているようですが、大筋として誤解であると考えます。遣倭使は、帯方郡太守の責務として、大量の下賜物/宝物を携えて皇帝の見解を辺境蕃王に伝える使節として派遣されるから、出発に先立ち、派遣先の素性と道里行程、つまり、所要日数(所要費用)の裁可を得ているはずです。道里行程は、既に確定していたと見ます。

 公孫氏遺物の「万二千里」を真に承ければ、一日四十里として三百日、十ヵ月かかりますが、宝物を、そのような途方もない遠隔地に、安直に送り出せません。して見ると、その段階で、道中四十日程度と知れていて、四十泊の宿泊/通過地と目的地から了解書信が届いていたと見ます。帰り道は空荷でも所要日数は大きく変わらないから、全日程概要は知れていたのです。

 「倭人」厚遇を厳命した先帝は逝去し、「明帝」諡号で、「倭人」は後ろ盾を喪いました。先帝違命の厚遇は並の厚遇に鎮静化したと見えます。

 本筋に戻ると、正始遣倭使は、派遣に先立ち計画を上申し、帰国報告もしましたが、報告済事項は先帝の印璽で公文書であり、書き足せても、訂正、改竄は出来ず、「従郡至倭」「万二千里」公式道里は「不可侵」でした。
 ということで、遣倭使の記録は、現地風俗(「法制度」と「習俗」を言う)記録や遠隔地に関する風聞の類いは収録されても、基本的な道里は維持されたのです。

2.陳寿の「編纂」について 余談
 氏が、『陳寿が「倭人伝」記事を一から創作した』と見ていると読み取れるのを契機とさせていただきますと、『史官の務めは、後漢、曹魏以来雒陽に継承されている公文書、即ち、「史実」を忠実に集成するのが本分である』から、当時の読書人は、その基準で「倭人伝」を査読し「倭人伝」「陳寿原本」[裴注以前の「本」(Edition)]は、正史に値すると認定したのです。

 ここで確認しておくと、陳寿の編纂に於いて、創作・風評の類いは、最低限と見るべきです。それは、周代以来厳然と継承された史官の責務ですから、全ての『倭人伝論』は、ここから始まるべきです。いや、これは、氏の意見を憶測しているので無く、当分野論客は、陳寿「三国志」「魏志倭人伝」が、持論による利益を妨げるものとして、支持論は、『聖典化』陰謀と曲解して、はなから喧嘩腰で論義する向きがあります。
 陳寿の立場は、二千年後生の無教養な東夷の知りうるところではないので、政治的と見える勝手な決めつけは、恥ずべき蛮習と思うべきです。ということで、あとがきで榊原氏が斥けた議論に、ついつい過剰に反応しましたが、今少し辛抱いただきたいのです。

 言い方を少し変えてみると、世の中には、「魏志倭人伝」が所属陣営の経営に対して「邪魔でしょうがない」から、寄って集って策戦会議し、不注意な改変から意図的な改竄に至るまで、高度な創意工夫をこめて陳寿「いじめ」に励む玄素名士が多く、榊原氏ほどの学識も、世間の義理に。多少は、影響されたかもしれないと思います。いや、軽率な決め付けは失礼します。

                                未完

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