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2024年7月 4日 (木)

新・私の本棚 河村 哲夫 講座【西日本古代通史】「邪馬台国論争のいま」Ⅱ 道里 2/3 三改

 アイ&カルチャ天神   資料 平成26年8月5日
私の見立て ★★★★☆ 沈着な道里論評  2020/09/24 補記 2022/08/29 2024/04/04, 07/04

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。

⑻邪馬台国  承前
㈢〈六百里=水行二十日+水行十日+陸行一月とする説〉

・不弥国までの七百里に対馬と壱岐の一辺四百里と三百里の七百里を加え、残る不弥、投馬、邪馬台の六百里を、水行と陸行2ヵ月かけることになる。
問題点・・さらに日数がかかりすぎる。

コメント 趣旨不明、意味不明です。門前払いすべきです。

㈣〈投馬国水行二十日と邪馬台国水行十日陸行一月は別々とする説〉

問題点・・苦肉の策問

コメント また一つの「趣旨不明、意味不明。門前払い 」です。

㈤〈放射状説〉
・伊都国から先は伊都国を起点にして、奴国、不弥国、投馬国、邪馬台国へ別々の道をたどる「放射式読み方」説。
問題点・・恣意的解釈

コメント 当説は、ほぼ榎一雄氏創唱のようです。なお、蛮夷伝の道里行程記事で、蕃王王治などの地域中心を終着点/始発点とみて、地域内の行路の扇の要とする「放射状」記述とするのは、班固「漢書」西域伝で前例のある「正史」書法であり、氏は、そのような定則を見過ごしているようです。そのために、榎一雄師という知識、見識に富む識者の意義深い提言を、十分考証することなく等閑に付しているのは、河村氏ほどの学識の持ち主にしては、不審です。
 ついでながら、およそ、あらゆる論考は、すべて、ご自身の論説を補強する論拠を収集、構築するものであり、いわば、「恣意」の固まりなのです。氏は、「恣意に過ぎる」とおっしゃりたいのでしょうが、「恣意的」となると、肯定的な評価なのか、否定的な評価なのか、意味不明で、読者は困惑するのでは無いでしょうか。もっとも、「恣意過ぎ」というと、現代若者ことばでは絶賛なので、一段と混乱しますが、どうでしょうか。

㈥〈選択的道程説〉
・水行なら二十日で、陸行なら一月、所要日数は二十日あるいは一月との説。
問題点・・文法的に問題あり。

コメント また一つの趣旨不明、意味不明。門前払いです。根拠の不確かな文法論議でなく、厳密な時代考証で評価されるべきです。
 ついでながら、伝統的な史学用語では、「問題」は、出題者が提出して、解答を求めているものであり、読者は、困惑します。

〈一日誤記説〉
・九州説では、陸行一月はかかりすぎだから、一日の間違いだとする。

コメント また一つの趣旨不明、意味不明。門前払いです。とても、学術的な論義とは思えません。「永久追放」ものの失格発言です。

〈方角修正説〉
・畿内説では、日数はあっているが、方角の南は東の間違いだとする。
㈦、㈧ 問題点・・恣意的読み替え

コメント ㈦、㈧ 共に、「単なる勝手な言い逃れであり、棄却すべきである」という点は、同感です。

㈨〈公休説〉
問題点・・公務員的発想

コメント 論外の児戯。「公休日」、「お役所仕事」、「接待漬け」など、論者の妄想、願望、公務員への私怨、偏見が拡大投影されています。公的研究機関の研究者は、基本的に公務員待遇であり、つまり、研究者の大半を蔑視する見解は、意味もなく敵を作っているものと見えます。
 当然ながら、論議は論理的に行うべきであり、現代人の見当違いの感情論を持ち出すべきではありません。いうまでもなく、魏使は、監査役付きです。曹操規準を見くびってはなりません。できの悪い、すべり放しの漫談ネタでしょうか。

㈩〈虚数説〉
・一万二千里というのは、まったくでたらめな虚数である。
・松本清張は『古代史疑』において、一万二千里は、漠然と遠い地域を指す場合にしばしば用いられた数字で実測ではないとする。その例として、『漢書西域伝』の大宛、烏弋、安息、月氏、康居道里が、「揃って長安から万二千里前後とは、明らかにいいかげんである」と断じている。
問題点・・陳寿は歴史を書こうとしている。

コメント 「まったくでたらめな」「虚数」は、数学の重大な原義を見損なった、まことに粗忽な罵倒です。
 この点が河村氏のご意見なのか、いずれかの風聞であるかは不明ですが、取り敢えず、「でたらめ」が神託であるとの論義は、後述します。
 また、松本清張氏の見解は、多忙を極めた文筆家が、寸暇を惜しんで書きためたものであり、歳月を味方にした古代史学者ではないので、兎角、性急な武断に走ることがあり、ここでも、論議の段取りが無理になっているようです。単に、帳尻合わせの「虚構」と云えば良かったのです。

 西域諸国道里は「万二千里」の「規準」に纏わり、例示されている諸国は、現地では、千里と離れてない塩梅の隣国であり、書かれている道里は、西域都護が得た百里単位の里数に即しているのであり、決してデタラメではありません。(筍悦「前漢紀」安息道里は、万二千六百里)
 清張氏の正鵠を得た着眼/発想には、ここでも脱帽しますが、以下の詰めが甘いのは、人気作家として多忙を極めたからでしょうか。補佐役に恵まれず独走したと見られます。陳寿は、計算の合わない「しくじり」は、何としても避けたはずです。

 「問題点」として、物々しくあげられている「陳寿は歴史を書こうとしている」と言うのは、現代用語を真に受けるとすると、誠に至言ですが。何が「問題」なのか、理解に苦しみます。ひょっとして、陳寿に対して、自己流の同時代歴史の著作を創作しようとしたと断罪しているのでしょうか。随分言葉足らずで、特に、「歴史」の意味付けが、軽薄な現代言葉に染まっているのかと疑われます。

 河村氏の意見を推定し、反論すると、陳寿は「規準」を熟知の上で、筋の通る数字を書いたのです。現代人の(欲ボケ)感性で批判してはなりません。魏志編纂を委嘱されていたとは言え、編纂した史書に皇帝以下の読者が納得しないと、解任/解雇で済めばまだしも、果ては、家族ともども「馘首」、刑死なので、全ての記事が真剣勝負です。

*「魏志」西域伝談議 余談
 因みに、「魏志」「西域伝」に関する当ブログ筆者の意見は、陳寿は、班固「漢書」西域伝に心服していて、これに付け加えるべき業績がなかったという理由から、「魏志」西域伝を割愛したと見るのです。何しろ、魏代、蜀漢の北伐で、関中平原以西は、魏の支配下になかったので、魏代「西域」は、はなから虚構だったのです。そして、三世紀当時、その点に関して、特段の非難がなかったところから見て、そのような西域観は、時代の読者の支持、ないしは、黙認を得ていたと見るものです。
 この意見は、陳寿が、後世の笵曄「後漢書」の底本となった、同時代の各家「後漢書」を参照していたとの見解/思い込みを、完全に否定するものではありません。むしろ、後漢代後半の桓帝、霊帝以降の東夷事績が、後漢公文書にほとんど記録されていなかったことを前提に、「魏志」東夷伝を集成したと見るものです。

                               未完

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