新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 6/8
「魏志東夷伝から邪馬台国を読み解こう」(海鳥社)2015年2月刊
私の見立て ★★★★★ 総論絶賛、細瑾指摘のみ 2024/06/23, 07/17
*不朽の「公式道里」
後世、大唐玄宗皇帝は、郡国志や地理志の「蛮夷に至る行程道里」が、実態と異なると「激怒」して実態調査を命じましたが、膨大な人員期間を費やした調査で公式道里が「訂正」されなかったのは言うまでもありません。
復習すると、「倭人伝」道里行程記事は、陳寿の責任編集で明快に成形されたと見るべきでありパッと検算できるのが、編纂の妙技と言うべきでしょう。
番外 「戸数」について 余談
かねて力説の通り、倭地には、労役を助ける牛馬がないので、各戸は、人力で耕作し納税は少ないので「良田」でないのです。近場の対海国と一大国は「良田」が少ないと苦境を述べますが以南諸国も大差ないと知れています。
*「倭人」の評価
次の二項目は、「倭人」の納税力/派兵力評価が困難と示しています。
其人壽考、或百年、或八九十年。各戸は労働力にならない年寄りが多い。
其俗、國大人皆四五婦、下戶或二三婦。各戸は、労働力に乏しい女が多い。
「倭人伝」行程諸国はなべて千戸代が、各国の実力です。
*「倭人」は、お構いなし
ちなみに、中国では、秦漢代以来銭納で、全国から京師/東都/首都に銅銭が届いたのです。韓濊倭は銅銭がなくて物納であり、「倭人」は、渡船海峡越えで不可能とみられます。「倭人」は郡に服属せず、郡制非適用と見えます。
*先進の韓国、未開の「倭人」
韓国の郡支配地は、戸籍/土地制度で戸数確定のはずですが、地力は「方里」表記です。先進の馬韓を含め農地が散在、空洞化した荒地と見えます。
国内諸兄姉の議論は、現地事情を度外視した時代錯誤「人口論」で激昂の例がありますが、史官は、実務に即した記事としていたのです。
*正史の嘘の皮
「史実」は、泥まみれで混沌でも、真っ黒い「史実」を真っ白な「嘘の皮」でくるむのが史官の至誠でしょう。「倭人伝」に陰謀論のぺてん仕掛けは論外でも、読者に苦痛を与えないためには、程々の技巧が必要でしょう。
*盗用の顰(ひそ)み
当記事は、氏の好著の核心部に異論を挟むので、言及を避けていた点が多いのですが、氏の労作である表Ⅳ―2を部分引用/改造盗用して論拠とした論考が見られたので、あえて、火中の栗を拾ったものです。氏の比定地論の邪魔にはならないと思いますが、ご不快の念を与えたとすれば、陳謝します。
*急遽追記 第Ⅺ章 女王卑弥呼の生涯
榊原氏が、掉尾を飾る卑弥呼小伝表Ⅺ―四において、「倭人伝」以外の不確かな資料に依拠して生年を六十年前進させたのは武断に過ぎます。景初二年遣使の際「年長大」つまり、「成人となった」とする普通の解釈を放棄して七十九歳と断じるのは同時代最有力用例に背いています。文脈から見て、女子王となって以来、数年程度とみるのが妥当です。是非ご再考いただきたい。
◯まとめ 陳謝と深謝
そして、当方は、氏が、「魏志東夷伝」里数記事について、世上の予断偏見を排して考証されたおかげで、道を迷わずに済んだことに深謝します。
願わくば、榊原氏ご自身から、本稿に提示した異議に対するご高評により御鞭撻いただければ、幸いです。
以上
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