« 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 7/8 | トップページ | 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 5/8 »

2024年7月17日 (水)

新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 6/8

「魏志東夷伝から邪馬台国を読み解こう」(海鳥社)2015年2月刊 
私の見立て ★★★★★ 総論絶賛、細瑾指摘のみ 2024/06/23, 07/17

*不朽の「公式道里」
 後世、大唐玄宗皇帝は、郡国志や地理志の「蛮夷に至る行程道里」が、実態と異なると「激怒」して実態調査を命じましたが、膨大な人員期間を費やした調査で公式道里が「訂正」されなかったのは言うまでもありません。
 復習すると、「倭人伝」道里行程記事は、陳寿の責任編集で明快に成形されたと見るべきでありパッと検算できるのが、編纂の妙技と言うべきでしょう。

番外 「戸数」について 余談
 かねて力説の通り、倭地には、労役を助ける牛馬がないので、各戸は、人力で耕作し納税は少ないので「良田」でないのです。近場の対海国と一大国は「良田」が少ないと苦境を述べますが以南諸国も大差ないと知れています。

*「倭人」の評価
 次の二項目は、「倭人」の納税力/派兵力評価が困難と示しています。
 其人壽考、或百年、或八九十年。各戸は労働力にならない年寄りが多い。
 其俗、國大人皆四五婦、下戶或二三婦。各戸は、労働力に乏しい女が多い。
 「倭人伝」行程諸国はなべて千戸代が、各国の実力です。

*「倭人」は、お構いなし
 ちなみに、中国では、秦漢代以来銭納で、全国から京師/東都/首都に銅銭が届いたのです。韓濊倭は銅銭がなくて物納であり、「倭人」は、渡船海峡越えで不可能とみられます。「倭人」は郡に服属せず、郡制非適用と見えます。

*先進の韓国、未開の「倭人」
 韓国の郡支配地は、戸籍/土地制度で戸数確定のはずですが、地力は「方里」表記です。先進の馬韓を含め農地が散在、空洞化した荒地と見えます。
 国内諸兄姉の議論は、現地事情を度外視した時代錯誤「人口論」で激昂の例がありますが、史官は、実務に即した記事としていたのです。

*正史の嘘の皮
 「史実」は、泥まみれで混沌でも、真っ黒い「史実」を真っ白な「嘘の皮」でくるむのが史官の至誠でしょう。「倭人伝」に陰謀論のぺてん仕掛けは論外でも、読者に苦痛を与えないためには、程々の技巧が必要でしょう。

*盗用の顰(ひそ)み
 当記事は、氏の好著の核心部に異論を挟むので、言及を避けていた点が多いのですが、氏の労作である表Ⅳ―2を部分引用/改造盗用して論拠とした論考が見られたので、あえて、火中の栗を拾ったものです。氏の比定地論の邪魔にはならないと思いますが、ご不快の念を与えたとすれば、陳謝します。
*急遽追記  第Ⅺ章 女王卑弥呼の生涯
 榊原氏が、掉尾を飾る卑弥呼小伝表Ⅺ―四において、「倭人伝」以外の不確かな資料に依拠して生年を六十年前進させたのは武断に過ぎます。景初二年遣使の際「年長大」つまり、「成人となった」とする普通の解釈を放棄して七十九歳と断じるのは同時代最有力用例に背いています。文脈から見て、女子王となって以来、数年程度とみるのが妥当です。是非ご再考いただきたい。

◯まとめ 陳謝と深謝
 そして、当方は、氏が、「魏志東夷伝」里数記事について、世上の予断偏見を排して考証されたおかげで、道を迷わずに済んだことに深謝します。
 願わくば、榊原氏ご自身から、本稿に提示した異議に対するご高評により御鞭撻いただければ、幸いです。

                                以上

« 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 7/8 | トップページ | 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 5/8 »

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 7/8 | トップページ | 新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 5/8 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2025年5月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 卑弥呼の墓
    倭人伝に明記されている「径百歩」に関する論義です
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は、広大な歴史学・考古学・民俗学研究機関です。「魏志倭人伝」および関連資料限定です。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 資料倉庫
    主として、古代史関係資料の書庫です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
  • NHK歴史番組批判
    近年、偏向が目だつ「公共放送」古代史番組の論理的な批判です。
無料ブログはココログ