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2024年7月17日 (水)

新・私の本棚 榊原 英夫「邪馬台国への径」 提言 完結版 7/8

「魏志東夷伝から邪馬台国を読み解こう」(海鳥社)2015年2月刊 
私の見立て ★★★★★ 総論絶賛、細瑾指摘のみ 2024/06/23, 07/17

□当ページは、余談です。
*魚豢「魏略」西戎伝 安息記事紹介
國出細絺。作金銀錢金錢一當銀錢十。
有織成細布,言用水羊毳,名曰海西布。此國六畜皆出。水[羊毳]或云非獨用羊毛也,亦用木皮或野繭絲作,織成氍毹、毾㲪、罽帳之屬皆好,其色又鮮于海東諸國所作也。又常利得中國絲,解以爲胡綾,
山出九色次玉石,一曰青,二曰赤,三曰黃,四曰白,五曰黑,六曰綠,七曰紫,八曰紅,九曰紺。今伊吾山中有九色石,即其類。

[羊毳]補填は、当ブログの独自提案。

*安息国の冨

 魚豢「魏略」西戎伝は、劉宋史官裴松之によって、「魏志東夷伝」の付録として、当時、健在であった「西戎伝」善本をそっくり収録したものであり、俗に言うような「佚文」や「短縮所引」などではありません。但し、正史西域伝の形式にはなっていないので、参考とするべきものです。
 内容は、後漢代、西域都督が健在な時期の記録てあり、魏代記録は、殆ど含まれていません。後漢代後期、西域都督を維持できず撤退したためであり、西域は、粗暴で略奪志向の大月氏/貴霜国に支配され、その西方の友好国「安息国」とは、ほぼ「絶」状態だったのです。
 ここに示したのは、安息国らしい大国の風俗記事の一部です。銀貨、金貨が通用し、多彩な「宝石」(貴石、準宝石)、「準宝石」を中心とする貴重な鉱物資源、畜産、羊毛絨毯・壁掛けなど豊富であり、中国産の絹織物の仲介に加えて、中国産絹布を解(ほぐ)した絹糸に、野繭から採れた絹糸や彩り豊かな羊毛を交えて織り上げた水羊毳が「海西布」として好評(高く売れた)のようです。国土は、砂漠、塩水湖、荒地と過酷な風土であり、それだけに、太古のアケメネス朝時代以来整備されていた街道を活用した通商で稼ぐ商人気質は、今日まで継承されているようです。
 安息国は、東西貿易に加えて、アラビア半島、ペルシャ湾、天竺(インダス川流域)との交易が盛んで、ローマ帝国を凌ぐ富裕さと見えますが、仇敵大月氏に阻まれて、その時期、西域都督経由の交遊が途絶えたのです。
 安息国は、後に、莫大な財宝をローマ帝国に奪われ、ついで波斯(ササン朝)にイラン高原覇権を奪われて、衰亡したのですが、魏晋政権は何も知らなかったでしょう。
 超大国波斯(ペルシャ)にササン朝が興隆しましたが、先立つ商業大国安息と違い、武力で領土拡大を進め、巻き起こった波斯の大挙東進で、大月氏/貴霜勢力は、消し飛んでしまったのです。但し、中国は、依然として南北分裂し、北朝も、後期は東西に分裂して、西域に於いて主導権を獲れなかったのです。

*「西域伝」割愛の背景 一説
 あるいは、このような記事を魏志に掲載すると、そのような無尽蔵とも思える富裕な「西域」と比較して、誠に細やかで貧しい「倭人」が誹りを受けるので、魏代に格別の成果のなかった「西域」蛮夷伝を割愛したと見えます。
 曹魏明帝は、後漢以来の西域都督の頽勢を見ていて、東夷振興で新たな栄光を築こうとしていたのかも知れません。誠に余談です。

*笵曄「後漢書」「西域伝」
 西晋崩壊、東晋南方逃避を承けた南朝劉宋の高官であった笵曄は、政変によって閑職に追われた後、それまで諸家「後漢書」が乱立、不備に終わっているのに着目し、諸家「後漢書」の統一集成に挑みました。本紀、諸臣列伝までは、先行諸書から精選して一流史書にしたのですが、「西域伝」と「東夷伝」に関しては、後漢霊帝没後以降の原史料(公文書)散逸による苦戦が見て取れます。魚豢「魏略」を頼りにしながら、文章家として盗用と言われないよう「しっぽ」を隠していますが、それは、史官ならぬ小人の勘違いです。

 特に、原史料皆無に近い「東夷列伝」倭条は、知る人ぞ知る改竄記事連発で、一段と嘆かわしいのです。

                                未完

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