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2024年7月 8日 (月)

新・私の本棚 小林 行雄 神と神を祀る者 ムラからクニへ  2/11 再掲

 日本文学の歴史 第一巻 神と神を祀る者  昭和42年5月10日刊
 ムラからクニへ  執筆者 小林行雄 (1911年8月18日 - 1989年2月2日 文学博士)
 私の見立て 全体 ★★★★☆ 学識芳醇 当コラム ★☆☆☆☆ 多々認識不足 2016/08/12 補充 2024/07/08

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*冤罪払拭

 以下引用した冒頭囲み記事「『魏志』倭人伝の信頼度」を「魏志倭人伝」と言う史料の紹介でなく、タイトルに対する口吻で始めている。

 世間に通じている「魏志倭人伝」なるタイトルは、遙か後世の、多分日本人が、便宜上付けた通称であって、いくら刊本に記載されていても、陳壽が編纂した本文ではない。よって、この通称は、倭人伝の史料としての信頼性には関係ない。

 因みに、遙か後世の南宋時代の版本である所謂「紹凞本」では、「倭人」記事の直前に、一行を費やして、「倭人伝」と書かれていて、世に「倭人伝」と通称される一因と見られる。二千年間のかなりの部分、当部分に対する「栞(しおり)」として、当用写本の上部に朱書されていたのではないかと見るものであり、大変役に立っていたものと思うのである。そのような「栞」付けは、「論語」で常用されていて、段落冒頭二字によって「通称」としていたことが知れているのである。
 なぜ、執筆者が、「通称」に対して反発を示されているのか、一介の素人が否定するものではないから、「理解しがたい」と書き留めておく。
 執筆者は、「魏志倭人伝」が陳寿自身の書き残した原本で無いことを力説されたが、「魏志倭人伝」なる「タイトル」は、あくまで「タイトル」に過ぎない、史料テキストの一部でない。一読者としては、力説の意義を読み取りがたいと書きつけておく。

 ちなみに、「紹凞本」は、北宋時代咸平年間に校正、確定され、初めて木版本として刊本された「咸平本」なる貴重書が、北方民族の江水(長江)岸に至る武力侵攻/文化破壊によって、北宋ほぼ全域で、刊本にとどまらず、印刷機や版木に至るまで撲滅された事態が起きたのである。いや、北方民族は、中原に君臨していた「宋」を打倒する際に、その精神的な支柱である四書五経の「哲學」の撲滅を必須としたため、中国全域の哲學書を木版印刷の版木まで、破壊し尽くしたのである。
 但し、破壊し尽くしたのは、「中国」全土であったので、外界であり、交通疎遠な「四川」、「益州」、ほかならぬ、蜀漢の故地に温存されていた善本写本から、紹凞刊本の木版を起こしたものである。おそらく、益州には咸平刊本が齎されていなかったため一次/二次の高品質の通用写本であったから、行格、字体が、咸平刊本と全く同一でないのに加えて、若干の加筆、誤写が有ったものと見えるのである。
 南宋初期に、北宋刊本の復原を図った際に、格段に進歩した版刻技術を採用したため、行格が精細化したとともに、それまで本文と同一行格であった裴注を、一行を二分する割り注としたことにより、格段に少ない紙数で刊刻できたのである。つまり、陳寿原本と「蛇足」である裴注を視覚的に区分できたのである。
 つまり、南宋紹凞刊本は、木版刊本として北宋咸平刊本に大幅な改善を施した時代頂点の境地(State of the Art)に至ったものであり、その一環として、それまで欄外注記されていた伝名で一行を消費することができたから、「倭人伝」と書くことができたのである。つまり、「倭人伝」は、南宋以降の新世代刊本の隔世の信頼性を物語っているのである。ちなみに、南宋第一世代の「紹興本」は、伝名行を持たない旧世代である。
 執筆者は、そのような細部をご存じないままに、世間に通じている「魏志倭人伝」』なる伝名について講評されているが、少なからず、要点を外れたものと見るものである。おそらく、国内諸史料、所謂「正史」の混沌たる継承状態を見て、「魏志倭人伝」に混沌を見ているのだろうが、それは、実証されていない「思い込み」なのである。

 また、各種資料に引用される際、「魏書」、「魏志」の両様であり、別に「魏志」と呼ぶのが間違っているわけではない。時に、「魏国志」と呼ばれるものでもある。むしろ、どの刊本を、史料文献テキストの原典とするかの選択が肝心であり、「紹凞本」を基礎とする現代刊本が意義を持つのである。
 念のために言うと、史官である陳寿は、三国志を「編纂」したのであり、紀行文学を「創作」したのではないから、オリジナリティー(創作性)を狙ったものではない。
 このような余談めいた書き出しは、以下の展開と相俟って、執筆者の先入観というか、素人考えによる偏見を押しつけるものである。

 ついでにダメ出しすると、当時の言葉で、「中国」とは、魏の統治していた中原のことであり、呉、蜀は、中国を割拠していたのではなく、四夷とも呼ばれた「辺境」を支配していたと見られているのである。これは、かなり深い内容であり、あるいは、執筆者は承知の上で、現代語として使用したかも知れないが、ここは、遠慮せずに書きつけておく。

 また、魏と呉が影響を与えようとしていたのは、北鮮ではなく、中国の北辺、戦国時代の燕の故地への入り口である遼東である。ご専門ではないので、地理認識がずれていたようである。

 いや、議論の本質ではない揚げ足取りに迷い込んだようで、反省する。

未完

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