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2024年8月 2日 (金)

新・私の本棚 サイト記事 塚田 敬章 「魏志倭人伝から見える日本」四訂 7/16

塚田敬章 古代史レポート 弥生の興亡 1,第二章、魏志倭人伝の解読、分析
私の見立て ★★★★☆ 必読好著 2020/03/05  記2021/10/28 補充2022/08/10, 12/18 2023/01/18, 07/25 
 2024/01/20、 05/08, 08/02

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*「方里」「道里」の不整合
 詳細は略しますが、「方里」表現は、その国/領域の(課税)耕作地の面積集計であり、「方里」は「道里」と別種単位と見るものです。
 要は、信頼すべき史料を順当に解釈すると、そのように適切な解に落ち着くのです。この順当/適切な解釈に、心理的な抵抗があるとしたら、それは、その人の知識が整っていないからです。現代風に云うと「メンタル」不調です。
 塚田氏が想定されている「方里」理解だと、一里百㍍程度となり「短里説」論者に好都合なので、文献深意に迫る健全な解釈が頓挫し、一方では、塚田氏のように不都合と決め付ける解釈が出回るのです。情緒と情緒の戦いでは、合理的な解釋が生まれるはずがないのです。
 「方里」の深意に迫る解釈は、まだ見かけませんが、少なくとも、審議未了とする必要があるように思います。

*「倭人伝」再評価
 「倭人伝」は、陳寿を統領とする史官達が長年推敲を重ねた大著であり、低次元の錯誤は書かれていないと見るところから出発すべきです。
 「一つ一つの文字に厳密な定義があって、それが正確に使い分けられており、曖昧に解釈すれば文意を損なうのです」とは、また一つの至言ですが、氏ご自身がその陥穽に落ちていると見えます。

 そして、「魏志韓伝」に、次の記述があります。
《原文…国出鉄……諸市買皆用鉄如中国用銭

コメント:産鉄談義

 まず大事なのは、魏では、秦漢代以来の通則で、全国統一された穴あき銅銭が、国家経済の基幹となる共通通貨なのに、韓、濊、倭は、文明圏外の未開世界で、およそ「銭」がないので、当面、鉄棒(鉄鋌)を市(いち)の相場基準に利用したということです。

 漢書に依れば、漢朝草創期には、秦朝から引き継いだ徴税体制が躍動していて、全国各地で農民達は、居住地で、収穫物を売却した上で、得られた銅銭で税を地域の領主に納めました。各地の領主から順送りに上納、集成された厖大な銭が、長安の「金庫」に山を成していたということです。高祖劉邦に続く、文帝、恵帝の時代は、内外の兵事が絶え、治安が安定し、在世が潤沢だったので、国庫の銭は、使い切れずに眠っていたと書かれています。
 戦国時代の諸国分立状態を統一した秦朝が、短期間で、全国隅々まで、通貨制度、銭納精度を普及させ、合わせて、全国に置いた地方官僚が、戦国諸国の王侯貴族、地方領主から権限を奪って、「皇帝ただ一人に奉仕する集金機械に変貌させた」ことを示しています。
 農作物の実物を税衲されていたら、全国の人馬は、穀物輸送に忙殺され、皇帝は、「米俵」の山に埋もれていたはずです。もちろん、北方の関中、関東は、人口増加による食糧不足に悩まされ、食糧輸送は、帝国の基幹業務となっていましたが、それでも、銭納が確立されていて、食糧穀物輸送は、各地の輸送業者に対して、統一基準で運賃を割り当てる制度が成立していたのです。(「唐六典」に料率表が収録されていますが、秦代以来、何らかの全国通用の運賃基準が制定されていたはずです)
 それはさておき、共通通貨がなければ、市での取引は物々交換の相対取引であり、籠とか箱単位の売り物で相場を決めるにしても、大口取引では、何らかの協定をして価格交渉するしかなく、とにかく通貨がないのは大変不便です。
 それでも、東夷で市(いち)が運用できたのは、東夷では商いの量が圧倒的に少なかったという趣旨です。逆に言うと、商いの量が多ければ、銭がないと取引が成り立たないのです。いずれにしろ、東夷では、現代の五円玉では追いつかない数の大量の穴あき銭が必要であり、それが大きな塊の鉄鋌で済んだというのが当時の経済活動の規模を示しています。

《原文…又南渡一海千余里……至一大国 方可三百里……有三千許家

コメント:邪馬壹国改変
 氏は、妙な勘違いをしていますが、南宋刊本以来「倭人伝」原本には、「邪馬壹国」と書かれていて、どこにも「邪馬台国」、正しくは、「邪馬臺国」などと改変されてはいないのです。
 因みに、氏が提示されているように、ほとんど見通せない直線距離も方角も知りようのない海上の絶島を、仮想二等辺三角形で結ぶなどは、同時代人には、夢にも思いつかない発想(イリュージョン)であり、無学な現代人の勘違いでしょう。

*地図データの不法利用疑惑
 当節、「架空地理論」というか、『衛星測量などの成果を利用した地図上に、実施不可能な直線/線分を書き込んで、図上の直線距離や方角を得て、絶大な洞察力を誇示している』向きが少なからずありますが、史実無根もいいところです。当時の誰も、そのような視野や計測能力を持っていなかったのであり、まことに「架空論」です。因みに、二千年近い歳月が介在しているので、現代の地図データ提供者の許諾する保証外のデータ利用であり、どう考えても、「地図データの利用許諾されている用法を逸脱している」と思われますから、権利侵害であるのは明らかです。
 塚田氏は、「架空 地理論」に加担していないとは思いますが、氏が独自に得た地図データを利用していると立証できない場合は、「瓜田に沓」の例もあり、謂れのない非難を浴びないように「免責」されることをお勧めします。

コメント:又南渡一海
 結局、両島風俗描写などは、高く評価するものの、「壱岐の三百里四方、対馬下島の四百里四方という数字は過大です」と速断していますが、それは、先に「方里」談義として述べたように原文の深意を理解できていないための速断」と理解いただきたいのです。
 塚田氏の折角の怜悧な論理も、前提部分に誤解があれば、全体として誤解とみざるを得ないのです。氏自身、「方里」の記法が正確に理解できていないと自認されている以上、そこから先に論義を進めるのを保留されることをお勧めする次第です。
 既に書いたように、陳寿は、当時の最高の知識人として、東夷伝で「方里」を書いたのであり、「道里」の「里」と異次元の単位を起用していると明記されているのですから、そのような理解が必要です。「異次元」とは、「方里」は、面積系の二次元単位であり、道「里」は、距離/尺度系の一次元単位なので、大小比較や算数計算できないという意味です。

                                未完

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