« 新・私の本棚 古田 武彦 九州王朝の歴史学 「国都方数千里」談義 四訂 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 刮目天ブログ 春秋二倍年歴?つじつま合わせの空想  2/2 »

2024年8月 2日 (金)

新・私の本棚 古田 武彦 九州王朝の歴史学 「国都方数千里」談義 四訂 1/2

 第四章 新唐書日本伝の史料批判  ミネルヴァ書房 2013年3月刊
私の見立て ★★★☆☆ 当記事範囲 功罪相半ばの卓見 2020/11/09
 改定2021/01/11 再訂 2021/01/12、01/31、07/22、2022/09/26 2024/04/13, 08/02

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

□はじめに
 本書は、章末に[注]、巻末に人名、事項索引を備え、専門書の体が整っています。学術書として十分な校訂を経ているという事です。なお、本稿は、1991年4月刊原著の復刊、確定稿の資料批判です。

◯一字の解釈考
 新唐書「日本伝」は、改国号記事の後、次のように書きます。(句点一部解除)
 使者不以情故疑焉又妄夸 其国都方数千里
 「東アジア民族史 2」(平凡社 東洋文庫 小林秀雄他 訳注)は「国都は、数千里四方であると誇大に偽っている」としていて、定説めいています。対して古田氏の読みは、(其国)「都(すべて)方数千里なり」で画期的です。

*誤解の是正 [概数表記割愛御免]
 (後世人にとって)自然に読めてしまう「国都」「方数千里」解釈は、すぐわかるように、文としての意味が通らず、途方もないのです。
 何しろ、正史として編纂された新唐書「日本伝」で、「国都」の所在地も城名も書かずに「方数千里」と広大さを語るのは、正史たる史書として法外です。「新唐書」は、個人の思いつきの産物でなく、衆知の結集ですから、本来、そのような不体裁はあり得ないのです。つまり、後世中国史家の句読が、「都」(すべて)錯誤に陥っているのです。
 加えて、東夷夷蛮の国の王の居処を、「国都」と尊称するのは、唐代としても、不敬の極みで、ここでも、解釈が齟齬しています。
 古典書を、「先入観に囚われて軽率に誤読する」のは、千年後生の無教養な東夷だけの特技ではないのです。

 是正は、「其国都」「方数千里」とする誤解を止め、「其国」「都方数千里」と正解します。つまり、「其国都」が「方数千里」』ではなく、『「其国」が「都(すべて)方数千里」』と読みなおすのが妥当で、以下、意味が通るのです。比較的意味の通りやすい「日本語」に飜訳するなら、「都合」とするところですが、「読み下し」では、限界を超えた感じもします。
 とはいえ、東夷が「国都」などと自称するのは、「自国」が「大唐」と対等だと反っくり返っていることになり、叱責を受けるべきものですが、中国側の鴻廬、つまり、異人受け入れ部門は、蛮夷の文書を取り次ぐ際には、原文のまま取り次げという指示でもあるようで、中国史書としては、異様に見えます。

 あえて、蛮夷が自称した「国都」を、国内史料風に国の「京都」(けいと)と解すると、例えば、平城京が、一辺数千里の正方形を満たしているという意味であり、鴻廬からすると、「おまえ、自分の言っている意味がわかっているのか」と言う事になりますが、来訪している行人、使節は、ただの子供の使いですから、返事のしようがないのです。まして、いや、これは、「国土」の書き間違いなどと言い逃れはできないのです、何しろ、国書には、国王の印璽が押されているから、一切、訂正できないのです。
 先賢諸兄姉から、その辺りの事情について、説明がないので、当否はともかく、素人考えでそのように解するしかないのです。

 何しろ、千年後生無教養な東夷と自覚して、その本能のままに「自然に」読むのでなく、丁寧に、其の「深意」を読み解く、高度に知性的な努力が必要なのです。

 そして、古田氏の採用した『「方里」が正方形一辺の里数を示している』とする「方里」解釈には、難があります。但し、話が長いので、別稿に譲ります。

◯舊唐書記事参照
 「舊唐書倭国伝」の「日本国条」は、「又云其国界、東西南北各数千里」であり、「方里」も「国都」も書かず、順当な記述です。編纂者の古典教養が偲ばれます。いくら、「蕃人の国書をそのまま取り次ぐべし」と言われても、物には限界があるのです。

 「舊唐書」を是正したと言う触れ込みの「新唐書」の「日本」伝が、冒頭の「東西五月行、南北三月行」の記事で矩形/方形領域を描きながら、天皇系譜記事と「日本」国号起源報告の後、面積表現として「方里」を申告したとしたら意図不明です。因みに、隋書では、俀国は道里を知らないと書いているのです。

*古典史書用語の復旧
 ここまで確認した限りでは、新唐書は、『漢魏晋の「方里」と「都」の規律を復旧した』と見えますが、理解した上で適確に再現したかどうかは、不明です。何しろ、後世句読で、時代最高の権威者が其の原則を失念しているのですから、あくまで、勝手とは言え、有力な仮説という事です。

*藩王に国都なし
 漢書以来の正統派正史は、漢蕃関係古制として、蕃王の居を「都」と称しません。
 国内の「王」治所を「都」と呼ぶことすらないから、遥か格下の蕃王、藩王が、其の居処を「都」と称するのは、死に値する僭越です。

 但し、西晋滅亡、中原喪失以降、つまり、漢蕃関係崩壊以後、北方蛮族から出て中原を占有した北魏、東魏、西魏、北周、北齊の北朝系王朝は、四夷は、ことごとく蛮夷たる自身の輩(ともがら)、共に「客」であったもの同士という共感からか、蕃王の居を「都」と称しましたが、全土を統一した隋、唐は、中華正統意識から、漢蕃関係を古制に復旧したようです。
 語義は著者の世界観に左右されるのです。従って、新唐書は、漢魏晋の「方里」と「都」で書かれているものと見えます。

*おことわり
 以上は、大変高度な審議なので、国内史料に長年慣れ親しんでいる方々には、俄に信じがたいかも知れませんが、当ブログ筆者たる当方は、こじつけや飛躍のない、順当な論考と考えています。また、後述するように、「倭人伝」の道里行程記事の明快な解釈に繋がるものです。

 以上、九章算術」及び関係論考、さらには、正史、ないしは準ずる史書である司馬遷「史記」大宛伝、班固「漢書」西域伝、袁宏「後漢紀」、魚豢「魏略」西戎伝、そして、范曄「後漢書」西域伝の関連記事を一応通読した上での「素人考え」の意見ですので、ご理解の上、反論があれば、具体的に指摘いただければ幸いです。

                                       未完

« 新・私の本棚 古田 武彦 九州王朝の歴史学 「国都方数千里」談義 四訂 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 刮目天ブログ 春秋二倍年歴?つじつま合わせの空想  2/2 »

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

古賀達也の洛中洛外日記」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 古田 武彦 九州王朝の歴史学 「国都方数千里」談義 四訂 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 刮目天ブログ 春秋二倍年歴?つじつま合わせの空想  2/2 »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ