« 新・私の本棚 仁藤 敦史 「卑弥呼と台与 倭国の女王たち」 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 番外 毎日新聞【文化財のあした】「邪馬台国 畿内説の現在...  »

2024年9月14日 (土)

新・私の本棚 仁藤 敦史 「卑弥呼と台与 倭国の女王たち」 1/2

 山川出版社 日本史リブレット001 2009年10月刊
 私の見立て★★★☆☆ 癒やしがたい「屈折史観」 2024/09/14

◯はじめに
 氏は、文学博士であり、本書刊行時には、国立歴史民俗博物館(歴博)教授であったとされている。歴博を代表する論者と見られることから、氏が推敲を尽くした本書に対して遠慮の無い批判が可能と見たものである。つまり、本書に示された、氏の見識に対して、疑念を投げ掛ける批判も許されると思うのである。本書の論考は、多くの部分で、陳寿「三国志」「魏志倭人伝」に基づくはずであり、氏の解釈に疑問が存在するが、氏は大半の点で付注を避けたので、氏の解釈を率直に批判する。

*年長不嫁(仮称)
 最初の例として、卑弥呼は「歳をとっても夫はもたず」と評されている。これは、年代ものの原文誤解と思われるが、氏は根拠を明示しない。また、以後の論考で、この解釈は援用されない。ちなみに、ここに勝手に掲示した「年長不嫁」(仮称)は、范曄「後漢書」東夷伝倭条の創作である。
 「一般的」には、「年已長大」「無夫婿」の解釈のようであるが、順当な解釈では「成人した」「配偶者はいない」と解すべき「事実報告」が随分野放図に意訳されている。どうも、近作NHKテレビ番組で俗耳に訴える「卑弥呼」大王神話に不可欠な「恣意」であるから、回心しようがないようである。
 中国史料として前後文脈を解釈すると、卑弥呼は男王の娘が嫁ぎ先で産んだ「女子」(外孫)であり、幼時から「巫女」として祖霊に耳を傾け、当然生涯不婚の身分であった。年稚(わかく)して「女王」に共立され、景初遣使に近い時期の年頭に十五歳になって成人したが、出自が釣り合いを保っていたために、両家にとって女王の中立性を保証していたと見える。ついでながら言うと、有力者の娘は、年若くして嫁ぐものであり、成人時に未婚の可能性は無いに等しいから、生来、不婚の「巫女」として「家」を守っていたと見るものではないか。

 僅かな字数であるが、氏は、組織伝来の時代考証の欠けた無教養な「読み」に依拠し、一種「職業災害」(Occupational Hazard)と言われかねないが。疾病でなく健康保険対象外である。(つけるクスリが無い)

*「少有見者」
 「女王となってから人前に姿を現さず」というのは、一種、誤解であり、正しくは「女王として朝見することは少なかった」のである。近親と生活を共にしていたし、奴婢とも顔を合わせていたのである。
 但し、当今NHKテレビ番組が暴露した全身を曝した御前会議の獅子吼などありえない。同番組は、高名な歴博松木教授の監修とされるが、仁藤氏は局外だろうか。組織変節に諫言しないのでは氏の学術上の良心は何処かと嘆くしかない。

*「屈折史観」の悲喜劇
 以下、本著は、全体としては、氏の良識が反映された快著であるが、党議拘束されているためか、倭人伝の「史料批判」が屈折していてもったいない。良識が折れたら、「火熨斗」で折り目を正すものではないかと思われる。
 三世紀当時、史書編纂は中国のみであり蛮夷に史書はない。「優良」などと納まらず、謙虚に「倭人伝」を取り入れ、謙虚に批判すべきかと思われる。
 また、「三国志」魏書にのみ東夷伝が存在する点に、年代もののもったいを付けているが、要するに曹魏にしか東夷伝の原資料が調っていなかったのである。三国鼎立と言うものの、後漢の文書管理部局を受け継いだのは、禅譲で天下を受け継いだ曹魏だけであり、東呉は、あくまで、後漢の地方政権であって、天下を有さず、蜀漢は後漢後継を謳っても、天下を把握する文書管理部局は存在せず、天子の行状を「実録」に日々書き留める史官もいなかった。当然、中国として、外夷を管理する鴻廬も存在していない。すなわち、呉書、蜀書に、外夷伝がないのは当然である。曹魏の関知しない外夷公式来貢は、雒陽公文書にないから魏書に採用されることは無い。
 中国史料の解釈は、中国の常識、教養に従うべきであり、二千年後生の無教養な東夷が寄って集(たか)って「小田原評定」するものではないのではないか、と素人は愚考する。

                               未完

« 新・私の本棚 仁藤 敦史 「卑弥呼と台与 倭国の女王たち」 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 番外 毎日新聞【文化財のあした】「邪馬台国 畿内説の現在...  »

新・私の本棚」カテゴリの記事

倭人伝道里行程について」カテゴリの記事

歴博談議」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 新・私の本棚 仁藤 敦史 「卑弥呼と台与 倭国の女王たち」 2/2 | トップページ | 新・私の本棚 番外 毎日新聞【文化財のあした】「邪馬台国 畿内説の現在...  »

お気に入ったらブログランキングに投票してください


2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

カテゴリー

  • YouTube賞賛と批判
    いつもお世話になっているYouTubeの馬鹿馬鹿しい、間違った著作権管理に関するものです。
  • ファンタジー
    思いつきの仮説です。いかなる効用を保証するものでもありません。
  • フィクション
    思いつきの創作です。論考ではありませんが、「ウソ」ではありません。
  • 今日の躓き石
    権威あるメディアの不適切な言葉遣いを,きつくたしなめるものです。独善の「リベンジ」断固撲滅運動展開中。
  • 倭人伝の散歩道 2017
    途中経過です
  • 倭人伝の散歩道稿
    「魏志倭人伝」に関する覚え書きです。
  • 倭人伝新考察
    第二グループです
  • 倭人伝道里行程について
    「魏志倭人伝」の郡から倭までの道里と行程について考えています
  • 倭人伝随想
    倭人伝に関する随想のまとめ書きです。
  • 動画撮影記
    動画撮影の裏話です。(希少)
  • 古賀達也の洛中洛外日記
    古田史学の会事務局長古賀達也氏のブログ記事に関する寸評です
  • 名付けの話
    ネーミングに関係する話です。(希少)
  • 囲碁の世界
    囲碁の世界に関わる話題です。(希少)
  • 季刊 邪馬台国
    四十年を越えて着実に刊行を続けている「日本列島」古代史専門の史学誌です。
  • 将棋雑談
    将棋の世界に関わる話題です。
  • 後漢書批判
    不朽の名著 范曄「後漢書」の批判という無謀な試みです。
  • 新・私の本棚
    私の本棚の新展開です。主として、商用出版された『書籍』書評ですが、サイト記事の批評も登場します。
  • 歴博談議
    国立歴史民俗博物館(通称:歴博)は歴史学・考古学・民俗学研究機関ですが、「魏志倭人伝」関連広報活動(テレビ番組)に限定しています。
  • 歴史人物談義
    主として古代史談義です。
  • 毎日新聞 歴史記事批判
    毎日新聞夕刊の歴史記事の不都合を批判したものです。「歴史の鍵穴」「今どきの歴史」の連載が大半
  • 百済祢軍墓誌談義
    百済祢軍墓誌に関する記事です
  • 私の本棚
    主として古代史に関する書籍・雑誌記事・テレビ番組の個人的な読後感想です。
  • 纒向学研究センター
    纒向学研究センターを「推し」ている産経新聞報道が大半です
  • 西域伝の新展開
    正史西域伝解釈での誤解を是正するものです。恐らく、世界初の丁寧な解釈です。
  • 邪馬台国・奇跡の解法
    サイト記事 『伊作 「邪馬台国・奇跡の解法」』を紹介するものです
  • 陳寿小論 2022
  • 隋書俀国伝談義
    隋代の遣使記事について考察します
無料ブログはココログ