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2024年10月20日 (日)

私の本棚 番外 奥野 正男「ヤマト王権は広域統一国家ではなかった」再掲

  奥野正男     JICC出版局 1992年
私の見立て★★★☆☆        2017/05/04 2024/10/20

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*密かな正論
 本書に関して、個人的な感想を、刊行後25年を経ている現時点でことさらに申し立てるのは、端的に言えば、当ブログ筆者がこれまで国内古代史に関して不審に思っている点に、とうの昔に鋭く異議を唱えているのに共感するからである。

*銅鏡配布論批判
 著者は、1990年代初頭の学会定説に従い、「三角縁神獣鏡」が魏鏡との仮定に基づいているが、それでも、当時小林行雄氏の創唱した「山城椿井大塚山古墳の被葬者が、ヤマト王権の配下で王権が支配する各地の首長(大人/大夫)に銅鏡を配布していた」とする説に強く反論している点に共感するものである。要するに、「銅鏡配送業者の手許在庫なので、副葬されている銅鏡の数が格段に多い」とする「卓見」に同意していないのである。
 考古学の成果である発掘物の考証を「日本書紀」の著述に合わせて解釈させることに、史学として早計ではないかと疑念を呈しているとも言える。

*墳墓規模論批判
 また、現在の堺-古市-巻向の各地に配置されている大規模墳墓が、(同時代)「ヤマト」の支配者であった天皇家の墳墓であり、その権力が広く喧伝されていて、世に卓越していたことを、それぞれの墳墓の規模で表していた」とする「俗説」にも、的確な反論を加えている。

 当方は、「遺跡、遺物は、今も、厳としてそこにある」が、『その解釈を「日本書紀」の著述に合わせて案配させることは、史学として疑問がある』という見方と思うのである。つまり、史学会の良識として伝えられているように、考古学成果を文献解釈に沿わせて解釈する際には、安易な前提、安易な図式の適用を、極力避けねばならないと感じるのである。

 素人考えでは、現代学識において「心地良い」風説は、それだけ、史実を離れている可能性が高いと見えるのであるが、どうであろうか。

*学問の王道
 以上の批判は、考古学の手法に従い、各地の遺跡とそこから発掘された遺物の精査に基づく主張であるから、所謂「通説」「定説」なる通俗的な見解に反するからと言って、軽々しく退けられるべきものでないのは言うまでも無い。学会の衆智を求めて、広く議論すべきなのである。それが、王道というものである

*共感と尊敬
 こうした批判は、当ブログ筆者が、各種著作に基づいて推論を試みているのとは、主張の方向が似ていても、その次元は大いに異なるのである。(当方のレベルが低いのである)
 わざわざ言うのもヤボであるが、近来の野次馬読者の読みかじりで言いがかりを付けられると困るので念押しすると、大いに見あげているのである。当方は、素人の稚拙な(卑下しているのであって、別に卑屈になっているのではない)思考の過程で、奥野氏の高度で堅実な論考と似通った意見を、独自に提示したことに個人的な満足を感じるのみである。

*「定説」の壁慨嘆
 それにしても、このような卓説を知らないままに自説を言い立てる不遜な輩(やから)は、軽重小大は問わず賑やかで、姦(かしま)しいと言いたくなるほどであるが、表現の適否はともかくとして、かくかくたる正論が、論拠が確立されていながら、論議されることなく、「定説の壁」に阻まれて世に広まらないことを嘆くものである。

 もちろん、世上溢れている論拠の無い「思いつき」まで、ことごとく衆議すべきだというものでは無い。そこの所は、よくよく、見極めて欲しいものである。

以上

 追記:当記事に対して、思いがけず閲覧者があったので、再確認したが、特に意見に変わりはないので、再掲した。
    但し、当ブログの守備範囲である。「倭人伝」論議を外れているので、「番外」と付題した。他意はない。

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