新・私の本棚 木佐 敬久 『かくも明快な魏志倭人伝』 再論・再掲
冨山房インターナショナル 2016/2/26
私の見立て★★★★☆ 必読の名著 2019/01/06記 2019/07/20 2020/04/30 改訂追記 2024/11/02, 11/21 補追少々
*加筆再掲の弁
最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。
◯始めに
木佐氏好著の書評は以前に公開していますが、現時点解釈で述べてみます。
*行程論
当方の不満は、本書がタイトルで「明快」と言いつつ、延々と旅程解釈に紙数を費やした点であり、今回も早々にご遠慮しました。
端的に言うと、皇帝上申の倭国志に、読み飛ばしの効かない煩雑な行程を載せるのは、読解困難で解答のない「問題」提示であり、単なる嫌がらせで、場違いと思われます。
本来、余計な道草を省けば明快な解答が浮かび上がる記事(問題)と見るのです。
*直行の勧め
つまり、伊都からの本行程は、倭王居処直行で、直後数国は傍路と見ます。奴国の所在を含め、自郡至倭行程記事には、寄り道に過ぎないのです。かって、氏は、「倭人伝」旅程批判で、郡倭は「水行十日、陸行一ヵ月」の総日程と述べて広く賛同を得ていましたが、本書では、その明快さが崩れています。また、半島西岸南岸の船旅想定が賢察に漏れたとは、もったいないことです。
*年長大論(別稿あり)
卑弥呼「年長大」の俗説批判には、大いに賛同します。氏とは別に近辺史料から用例を検出し、ほぼ同様の観測に達したので我が意を得た所です。
古田氏が起用した「呉志」曹丕用例ですが、孫権が高官諸葛瑾に対し、即位時三十才超の曹丕を青二才と評した記事は、呉朝史官の筆(呉書)であり、魏志なら曹丕、曹叡に不敬ですが、陳寿は「呉志」諸葛伝として温存しています。
と言うことで、「呉志」用例は、むしろ、法外な難詰であり、俾彌呼の年齢形容に持ち出すのは、不適当と考えるものです。そして、当用例を除けば、「年長大」は、ほぼ、成人となる、例えば、十八才となるとの意味です。
*FAQならぬFAC(良くあるコメント)
因みに、この件の議論を公開すると、毎回、用例を全部調べて書けとコメントされますが、史書用例はよく調べてよく読んでいて、異論を脇に置くだけの根拠を公開しているので、ちゃんと読んでからコメントしてほしいものです。
むしろ、世上の各論者は、用例識不足であり、卑弥呼老魔女説など、古くさい「バチもの」先入観で文献解釈を曲げている、曲芸ならぬ「曲解」の例と思われます。
なお、「年長大」なる著名な成句は、(中国語)辞書に幾つかの意味が提示されていて、子細に読むと、ここにあげた解釈を排除できないと知るはずです。
当時、王族女子は早婚で、十五才までに縁づくから、倭女王は「共立後成人して、(当然)夫婿を持たない」との記事の深意を察するべきです。
季刊「邪馬台国」誌連載の「倭人伝」解釈論考で大いに名を馳せ、戦前/戦中の皇民教育の日本語素養と戦後修めた中国語の教養を共に有している張明澄氏が屡々注意喚起しているように、陳寿は、辺境帯方郡の書き役の、時に中原教養人の常識を外れる文章を温存していて、古典用例は、必ずしも倭人伝の文脈の意義を越えて適用すべきものではないのです。
そして、里数や水行に関する「倭人伝」提言の如く、「三国志」「魏志」用例すら絶対ではないのです。
*戸数概数論
ついでのように、氏は、晋書ばりに、戸数可七万餘戸を総戸数と論じていますが、ここは直感ではなく、適確に論評して欲しいところです。
「可」「餘」に対する適確な評価、つまり、萬戸単位の前後を含みうる大変、大変おおざっぱな概数であり、千戸以下の端数は、萬戸単位計算に影響しないとの定見がはっきり示されていないので、二萬餘戸(奴国)、可五萬餘戸(投馬国)の二大国に、他国戸数を足したとき、可七萬餘戸に収まらない、との定評(FAC)を克服できないため、一般読者に賛同されないのです。
素人が愚考するに、大局理解には細部を読み飛ばす勇気が必要でしょう。
*まとめ
以上のように、凡俗は好著の瑕瑾をつつくしかないのです。
以上
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