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2024年11月25日 (月)

新・私の本棚 塩田 泰弘 『「魏志倭人伝」の行程と「水行十日陸行一月」について』 3

私の邪馬台国試論 - ふくおかアジア文化塾
九州を知る アジアを知る ふくおかアジア文化塾  2024/07/14
私の見立て★★★★☆ 堂々筆致。疑問点のみ 2024/11/25

◯始めに
 本稿は、長年堅実な考察を呈示されている塩田泰弘氏の最新論考であり、古代史に関し重厚な「日本通史」を刊行されている河村哲夫氏主宰サイトの掲載記事であり率直な批評に値すると考え、端緒として瑕瑾を言いたてています。

*また一コマの疑問文
 「魏志倭人伝」に記されている行程は、「郡より倭に至るには、海岸に循って水行し」となっており、「水行」から書き始められている。帯方郡からその南方面にある海外の国々に行くには、帯方郡の主要な海港である海州が出発点となる。ここが「水行」の起点であるが、その前に帯方郡治から海州までの行程がある。この行程は陸路で約860里(約74キロ)である。
 「魏志倭人伝」は、三国時代の歴史を記述したものであり、これを読む主な対象者は晋の朝廷の官人や知識人である。晋の出先機関である帯方郡内のことである帯方郡治(郡役所)から海州までの行程を「魏志倭人伝」に改めて記す必要などないのである。

 氏の誤解は、行程が「水行」から始まるとの勘違いである。史記以来の正史行程記事に「水行」がないことは、古代史書に通暁している渡邉義浩氏の確認である。従って、史官の行程記事語彙にない「水行」を不意打ちで起用すると、不法であり、厳罰であるから、ここは、行程本文でなく「従郡至倭」は郡から一路南下で倭に行くが、後出する「渡海」は、海岸循「水行」と理解いただきたいとの予告である。
 行程記事は、陸上街道に決まっているから、説明を加えずに、東南方向に街道を進むのである。司馬遷「史記」以来の正史行程記事に「水行」がないことは、一般人の知識を超えているが、先行史書である司馬遷「史記」、班固「漢書」の該当部分を検索すれば、確認できるので、渡邉氏の見解を理解できない方は、自力で検証頂けば良いのである。
 ついでに、塩田氏の誤解を正しておくと、帯方郡は、後漢代に設立された「郡」であり、現代人の思う晋の「出先機関」などではない。「魏志倭人伝」は、東夷として初見の「倭人」の身上書であり、「三国時代の歴史」などと言う異常な史書ではない。陳寿「三国志」全六十五巻の写本は、当然読者が限定されていて、「官人や知識人」などという正体不明の不特定多数の読むべきものではない。ある意味、司馬晋の国家機密に類するものである。

 そもそも、中国語で「水行」は、河水など河川を渡船で渉(わた)るのであり、中原人の知らない海(うみ)に乗り出して、沿岸で無く「沖合い」を移動することは「絶対に」有り得ない。
 二千年後生の無教養な東夷、つまり、現代日本人読者は、そんな禁則を知らないから、「普通に」「すらすらと」、「海岸に循して水行」を、「いきなり航行」と理解してしまうが、それはまたとない「誤解」であり、一発退場である。

 ついでながら、行程記事の主要部分は、郡が皇帝に報告したものであり、「郡倭万二千里」の総道里は、当然、それ以前に「郡」が策定したから、後世の陳寿は、一切関知していない。よろしくご記憶いただきたい。
 ちなみに、范曄「後漢書」東夷列伝「倭条」には、後漢霊帝期(帯方郡設立以前)の記事として、倭王の居処「邪馬臺国」は、楽浪郡を去ること万二千里と明記されている。後世の読者は、ここで「邪馬臺国」を刷り込まれるから、後代の「魏志倭人伝」の記事は、「倭条」に欠けた部分だけ補充して、相違点はゴミ箱入りである。そのため、暗黙当然の「倭条」優先教条(范曄ファースト)が、巾をきかしているのである。

 韓国西方が「海」であるから「海外」は山東半島である。見当違いである。「倭人」は、帯方南の「大海」中の山島に在るから、「海」は関係ないし、「海外」も関係しない。
 「海州」は高麗の新地名と見える。確認乞う。(魏晋南北朝以前に用例なし)

(2)「水行十日」の行程
 前述したとおり「魏志倭人伝」に記載されている数値は、約5倍に拡大して認識するように仕組まれているが、この観点から「水行十日陸行一月」を考えてみる。まず、「水行十日」である。「水行」は帯方郡(海州)から末羅国までで、この間の所要日数が「十日」ということである。

 「水行」に関する重大な誤解から、この部分以下の遠大な議論は、すべて空転である。既述のように、「水行」は、狗邪末羅間の三度の渡海を渡河に例えたものであり、渡船自体は半日仕事にしても、乗り継ぎがあるので総計十日としたのである。
 例えば、対海国北端の海港に到着しても、南下街道などないから、軽舟に乗り継ぎ、南島国治で狗邪以来の行程が一段落する。ここから南下した一大国は内陸交通で北端海港から国治に参上するだろう。
 以下、末羅国に渡海するが、上陸し国治に参上した後は、倭地の「街道」を「陸行」して伊都国に到るから、伊都国で、主要行程は完結するから、以後の主要行程に水行はない。

 と言うことで、全工程の内、規定に従う半島内行程と末羅国上陸以降の倭地行程が、当然の陸行である、半島内は魏制の街道であるから、規定で乗馬ないしは馬車によって着着と移動し、毎日、宿場で食事と寝床があるが、末盧国以降は倭地径で駕籠や輿の移動になり、移動速度は格段に低下したはずであるもちろん、伊都国に到る倭地行程は、魏制街道ではないものの、市糴(荷物輸送)の為、適時保全されていたし、野宿では無かったが、牛馬が利用されていないし、荷車も無かったと見えるから、とにかく、人手頼り、人海戦術であった。平時、郡からの文書便は、本来騎馬文書使が送り継ぐのであるが、倭地では、人手に頼るしかなかったと見える。

 だから、倭地の行程が何百里というのは、所要日数を示していないから、規定としてまるで意味がないのである。

                         以上本項の終わり

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