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2024年11月27日 (水)

新・私の本棚 青松 光晴 「日本古代史の謎-神話の世界から邪馬台国へ」再掲 2/2

「図でわかりやすく解き明かす 日本古代史の謎」 Kindle 版
私の見立て ★★★☆☆ 凡庸 アマゾンKINDLE電子ブック   2020/05/17  補足 2022/04/22 2023/06/12 2024/03/31, 11/27

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*渡海派兵の愚
 そういうことで、この時代の「インフラストラクチャー」(古代ローマ起源の概念であり、時代錯誤ではない)の不備、つまり、渡海輸送の隘路を知れば、「渡海派兵」発言はありえないのです。
 よって、帯方郡は、倭人救援は勿論、徴兵も考えてなかったし、大量の米の貢納も意図していなかったのです。
 その背景となる事情は、「倭人伝」に、赫赫と明記されています。 

*古代算術の叡知
 最近話題になる古代の算術教科書「九章算術」では、管内に複数の穀物供給拠点がある時は、「輸送距離が短く人馬を多く要しない」拠点から多くを求め、「遠隔で人馬を多く要する」拠点からは極力求めないようにする算法問題と解法が示されています。
 といって、税を銅銭で納めさせようとしても、韓、倭には、銅銭が通用していないので、これまた、不可能なのです。

 徴兵問題も同様です。援軍募兵は大量の軍糧が必要なのに加えて、海峡越えの大軍移動は相当な期間を要する上に、帰国時に手ぶらで帰すことはできないのですから、移動食糧が往復二倍必要です。まして、倭人には軍馬がないので、渡海徴兵は「論外」も良いところです。そもそも、言葉が通じなくては、戦場でものの役に立たないのです。
 知らないことは手を尽くして調べるべきです。余談に近い感想に無批判に追従されると、古田氏も「浅慮」を拡大投影されて不本意でしょう。先賢の論法は無批判に踏襲せず、掘り下げるべきです。

 古田流半島内行程図は、子供の落書きのような階段状行程ですが、古田氏ほどの取材力があれば、関係史料と現地地形とに照らして合理的に具体化できたはずです。

*官道移動説の密かな先例~不可解な埋没
 岡田英弘氏は、現地地理を知悉していて、帯方郡から狗邪韓国への行程は、韓国鉄道の中央線の示すように、郡からの行程は、漢江流域沿いに南下して、南漢江中流の忠州から(現在では、ダム湖に没している旧道を溯って)小白山地鞍部である鳥嶺(竹嶺)を越えて栄州で洛東江流域に下り、以下、狗邪韓国まで南下したのであろうと示唆していますです。もっとも、そのように絶妙の慧眼を示した岡田氏が、何の気の迷いか、[従郡至倭]の解釈では、[衆愚追従]でもないでしょうが、黄海南下の後、東に転じて狗邪韓国に至る「年代ものの不可能使命」を取り入れているのは、何とも、何とも残念です。
 このように、氏の時代を越えた慧眼は時に曇って氏の叡智を遮っていますが、それは、この場に限った蹉跌ではないし、どんな英哲も、全知全能、万事無謬でないのは、自然なことです。むしろ、素人目に不可解なのは、岡田氏ほどの先達が、本件では、ご自身の崇高な叡智を、意図せずとは言え、決定的に曇らせたため、陳寿の真意は地に埋もれたのです。

 同様に、この点で、古田氏を批判することはできても、古田師の所説を全否定するのは無謀であり、まして、それを言い訳に、世の不合理な海上移動説を支持するのは、絶対的に不合理です。

*登頂断念の弁
 当ブログ筆者の得意とする道里行程論で意欲を蕩尽しましたが、倭人伝」ほど誠実に調整された文書を、真っ直ぐに解釈できないようでは、混沌と言いたくなるような国内史料の解釈、考証など、満足に行くはずがないのです。氏は、世上の野次馬論者と同様で、相当の勉強不足と見えます。
 本書を充実していると見える広範な議論も、希薄な受け売りで埋められて見えます。はったり半分でも良いから、自分自身で丁寧に検証した、きっぱりした主張が必要です。
 いや、本書のあるいは中核かも知れない国内史料、考古学所見、現地地理などは、当記事筆者の倭人伝専攻宣言の圏外と敬遠した次第です。

*業界の現状 余談
 本書著者にご迷惑でしょうが、本書の評価が順当になされないのには、理由があるのです。世の中は、国内史料解釈で「目が点」の諸氏が、「倭人伝」二千字の解釈に失敗して、「史料が間違っている」「フェイク」だと声を上げているのです。
 また、「自身の持つ所在地論に反するものは、はなから間違っている」という横着な判断が横行して、そうした不動の信念に従わない「倭人伝」は、「フェイク」視されているのです。時に言う「ちゃぶ台返し」ですが、ほかにまともな史料がないのに、無謀なものです。というものの、実は、舞台裏で言い繕って、結局「倭人伝」に土下座しているのです。
 いや、釈迦に説法でしょうか。
 普遍/不変の法則として、どんな分野でも、新説、新作の九十九㌫は「ジャンク」ですが、全体として、「倭人伝」ほど実直な著作が、目立ちたがりでトンデモ主張展開の「ジャンク」記事「ジャンク」本の紙屑の山に埋もれてしまうのは、もったいない話です。

*まとめ
 折角の新刊ですが、『基本資料である「倭人伝」と従来の史料解釈を把握し、課題となっている諸事項を取り出し、それぞれに解を与える』と言う、大事で不可欠な手順が見て取れないので、既存諸説の追従としか見えないように見えてしまいます。
 また、著者が整然と理解してなければ「図示には、全く意味がない」と理解いただきたいのです。もっとも、著者の構想を図示した図がほとんど見当たりません。
 (概念)図は、読者の知識、学識次第で解釈が大きく異なるので、学術的主張に於いて論拠とすべきではないのです。図や意味不明な「イメージ」は、あくまで文書化された論理の図示という補助手段に止めるべきです。古代史分野では、読者の誤解を誘う、いい加減な図(イリュージョン)が多いので、そのように釘を刺しておきます。

追記 基礎の基礎なので、本書が依拠した無法な巷説を明記します。

 三国志の「蜀志七、裴松之注所引「張勃呉録」」に、「鴑牛(どぎゅう、*人のあだな)一日三百里を行く」とあり、三国志の時代の標準的な陸行速度は、「1日あたり三百里」だった。

 同「史料」は、そもそも、慣用句、風評であり、「三国志」本文でなければ、考証を経た史書記事でもなく、まして「魏志」でなく『別系統の「蜀志」への付注』に過ぎません。裴松之が補充したとされていますが、厳密に史料批判されたものではないので、もともと、陳寿が、一読の上、排除した史料かも知れないし、裴松之も、本件は陳寿の不備を是正する意図で補追したものではないと見えるのです。この点、世上、裴注の深意について、不合理で勝手な憶測が出回っているので、苦言を呈しておきます。

 里制は、万人衆知の上で普遍的に施行されていた国の基幹制度であり、周代以来一貫して施行された確固たる制度なので、一片の噂話で証されるべきではありません。つまり、当記事は、「三国志」の時代の国家「標準」を示すものではないのです。

 ついでに言うと、蜀は、公式には「漢」を名乗っていたのであり、劉備は、高祖劉邦以来続いていた漢の天子であり、当然、後漢諸制度を忠実に受け継いだのであり、不法にも後漢を簒奪した逆賊「曹魏」の「不法な制度」に追従することなど、天にかけて、断じてあり得ないのです。いや、曹魏にしても、禅譲により漢制をすべて継承したのであり、里制改変などの不法な制度改革を行うことはあり得ないのです。
 現に、遅くとも周代以来施行されていて、秦始皇帝が当時の中国全土に敷き詰めて、天下の根幹とした「里」制(ここで言う「普通里」)が、俄(にわか)天子の一辺の命令で改訂されることなど、「絶対に」有り得ないのです。(実行できないという意味です)

 この種の論考は、無意味であり、さっさと棄却すべきです。

                               以上

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