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2024年12月11日 (水)

新・私の本棚 番外 NHK BSP「邪馬台国サミット2021」新総集・再 3/3

[BSプレミアム]2021年1月1日 午後7:00, 【再放送】 5月30日 午後0:00,12月27日 午前9:14
私の見立て ★★★☆☆ 諸行無常~百年河清を待つ 2021/05/24 補充 2021/12/27 2023/01/16 2024/12/11

*加筆再掲の弁
 最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲したことをお断りします。代わって、正体不明の進入者があり、自衛策がないので、引きつづき更新を積み重ねています。

*殿、ご乱心~出所不明史料の怪、また怪
 今回の番組で、何とも重症なのは、三国志学首魁渡邊義浩氏の「暴挙とも見える」「ご教授」です。折角、新説の疎漏を指摘する至言があったのに、このたびは、愚劣な発言になっています。勿体ないことです。

 正史の一章であり、文書史料として、この上なく良質に維持されている「倭人伝」の史料考証で、正史どころか、史書でもない、佚文と云うより、文書としての質が劣悪な断簡しかない後代の文芸書である「翰苑」を持ち出すのは、度しがたい場違いです。

 そして、この場では、論義されている「会稽東治東」ならぬ「会稽東冶東」の史料影印が、出所不明で投げ出されたのです。
 紹興本、紹熙本、汲古閣本、武英殿本、さらには、書陵部所蔵本まで確認しても「会稽東冶」と書いた魏志刊本は存在しないのです。それぞれ、刊本、つまり、それぞれ木版印刷本(刊本)ですから、個体差はなく、全て「東治」です。氏の提示史料は、どこで見つけたのか、その場では不明です。(不意打ち、闇討ちという事です)

 もっとも、このような異論の持ち出しは、「爆笑問題」ならぬ、古田武彦氏ばりの渡邊義浩氏「爆弾発言」で、これはまことに勿体ないことです。氏は、太鼓持ち気質なのでしょうか。

*「中華書局本」の闇討ち
 散々調べた後で、『諸刊本で「東治」と一致して明示されている「東治」が「中華書局本」で、なぜか「東冶」と「改竄」された』らしいとわかったのです。しかし、現代新作の異本ですから、それ以前は誰も知らないのです。

 また、部分拡大されると、何のことかわからないのです。たかが一史料にその通り書かれていると、このような低次元の提示を頂かなくても、氏がそのように主張すれば十分なのです。

 ともあれ、素人論者は、番組の流れで、不意打ちで表示されたら、史料出所に気づかないので、新発見かと思うのです。それにしても、史料の選択、表示に関する渡邉氏の判断は、どうなっているのでしょうか。
 NHKの制作方針も、一段と不審です。出演者の発言は、「ファクトチェック」無しで、言いたい放題にさせるのでしょうか。まるで、闇仕合です。

*「翰苑」史料批判の齟齬
 私見では、当時存在の「魏志」写本に会稽「東治」と明記されたものを、「翰苑」編者が単に「会稽」としたのは、世上、「東冶」に誤解する読者があって、無用な誤解を排除するため「東治」を削除したとも見えます。
 いや、単に、「翰苑」編者の手元に、誤写された所引が届いた可能性が濃厚です。そもそも、「翰苑」現存写本が、どの程度、「翰苑」原本を再現しているのかも、不明です。何しろ古代史学界で蔓延している「戯言」に追従すると、『「翰苑」原本は現存せず、「翰苑」原本を見た人間も、現存していない』のです。そして、「翰苑」現存断簡は、誤写、誤記、書き間違いが多発している「札付きのダメ史料」なのです。 

 「東治之山」の由来と見える「水経注」などの記事でも、禹后が会稽した山である会稽「東治之山」が、しばしば「東冶之山」と誤記されている史料があるから、古来、誤解の的です。

 ということで、「翰苑」は「東冶」「東治」のいずれかを正当化する史料ではありません。渡邉氏は、現代史料である「中華書局本」を持ち出して南宋刊本に反する「東冶」を正当化したのですが、本件は、一級史料と確立されている「倭人伝」を、不良資料で覆すという論外の暴挙であり、渡邉氏ほどの史学者としては、とびきりの愚行と思われます。

 氏は、陳寿「三国志」と袁宏「後漢紀」以外の史書は、本気で読み込んでいないのでしょうか。いや、筆が滑りましたが、渡邉氏は、范曄「後漢書」の権威でもあります。

*ついでの話
 別件ですが、氏の「黥面文身」解釈は、軽薄で的外れと見えます。「黥面」「文身」は、それぞれ、切り分けて慎重に考証する必要があります。図版の無い倭人伝の解釈に対して、出所不明の図版や年代、地域で繋がらない遺物を起用するのは不審です。
 当ブログ筆者は、一次資料に基づく仮説は、それなりに尊重しますが、出所、根拠不明の風説資料に基づく思い付きには、疑問を呈するものです。
 氏が堂々とぶち上げる論議が、不審を感じさせます。例えば、三世紀当時、倭で広く行われた黥面が、日本史で蔑視されているのは、どういうことでしょうか。因みに、中国で、顔面に黥するのは、罪人の徴とされていたのです。
 何れかの時点で、制度が変わったのなら、旧制の貴人が罪人となるので、歴史的画期的大事件ですが、そのような記録は残っているのでしょうか。まことに、不審です。

 また、倭人伝記事にある黥面文身の「水人」は、纏向では存在し得ないと思います。内陸の奈良盆地で、大量の魚鰻をどうやって捕らえたのか。いや、別に、氏が畿内説と決め付けてはありませんが、それほど力を入れるのであれば、説明が必要と思うのです。

 それとも、氏は、中国史書専任で、国内史書には一切言及しないと談合していたのでしょうか。うさん臭い話です。

 と言うことで、氏の問題発言としては、「史官嫌い」の次は、「お手盛り史料」ですが、世人が、渡邉氏に求めているのは、「香具師」紛いのはったりではないのです。視聴者は、氏ほどの学識・知識は持っていませんが、素人を侮るのは感心しないのです。

〇お仕舞い
 今回の「バトル」に直接関係はしないのですが、論争に適確な審判役がいないのも、この分野に泥沼の「バトル」が持続する原因と思えるのです。

*碩学の晩節~取りこぼし補充 2023/01/16
 一番印象に残っているのは、最後に、纏向博士の石野御大(石野博信師)が「レジェンド」(博物館財貨)の立場から、静謐な託宣を垂れていたことです。
 当コメントは、氏の晩節を飾る明言と思うので、さらりと紹介すると、『「倭人伝」に書かれているという「邪馬台国」の所在について論議するのはこの辺にして、歴史を語ろうではないか』というものだと思うのです。
 纏向出土の土器も、「全国各地から持参された」などの年代物のこじつけ議論を去って、吉備から持参、あるいは、将来されたかと、穏当な推定はありがたいのです。

 それまで、「談合」とか「大乱」とか、それこそ、治にあって乱を求める議論が漂っていましたが、氏の齎した柄杓一杯の水で、全て鎮火した感じです。ただし、後進の方は、石野氏の木鐸を担うのは、自分たちだと自負して新たな火種を掻き立てていたようです。

 後継者諸兄姉も、三世紀における倭国広域連合「古代国家」の白日夢を卒業して時代相応の考察を進めるべきではないでしょうか。今からでも遅くないと思うのです。もっとも、ただの素人がここでいくら提唱しても、何の効果もないのでしょうが

*悔いのない報道
 それにしても、NHKがなぜ当番組を「サミット」と呼んだのかも不審です。素人目には、「倭人伝」に関しては、「原典派」と「改竄派」の二派しかないように見えるのです。そして、一見与党、実は野党の「改竄派」は、『「邪馬臺国」と書かれた「倭人伝」が絶無である』という負の物証が、鉄壁のように聳えているものを、変則的な文献史料考証という「超絶技巧」で迂回してみせる必要があるのです。
 これに対して、一見野党の「原典派」は、確たる史料である「倭人伝」に立脚しているから、特に「超絶技巧」は必要ないのです。

 端から勝負は決まっているのに、理屈の通らない異論を唱えて、これを覆そうとするのは、どこぞの世界の寓話のようです。

 NHKは、長年、「変則的な」「超絶技巧」に荷担していますが、それで報道機関として、公共放送として、何の悔いもないのでしょうか。勿体ないことです。
                             この項完

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コメント

>〇お仕舞い
 今回の「バトル」に直接関係はしないのですが、論争に適確な審判役がいないのも、この分野に泥沼の「バトル」が持続する原因と思えるのです。

〇なるほどです。
 一連の邪馬台国所在地論争コメント、たいへん参考になりました。
 また、泥沼の「バトル」が持続する、ということ、日本の考古学の問題点がよく分かりました(笑)。

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