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2025年4月19日 (土)

新・私の本棚 古賀達也の洛中洛外日記 第3463話 倭人伝「万二千余里」のフィロロギー (4) 改訂

 「周旋五千余里」、野田利郎さんの里程案 2025/03/31  2025/04/02 改訂 2025/04/19

◯はじめに
 当連載記事は右顧左眄せず一路邁進ですから、当方も一路邁進します。
 既に泥沼化しかけていますが、懸案は「里数の概数計算において、部分里数計は総里数とピッタリ一致しなくても良い」とする「公理」の確認です。

倭人伝の里程記事「倭地周旋五千余里」は、古田説によれば次の倭国内の部分里程の合計と一致します。
 当ブログでは、古田師の第一段階提言の総括として、以下を懇望します。

 「倭人伝」に、明記も示唆もない、一切書かれてない島巡り論は、論議無用です。「方里」談議は、深くて大きい傍路に入るので割愛します。
郡狗邪韓  陸行 七[千余里] 狗邪韓対海  水行 一[千余里]
対海一大  水行 一[千余里] 一大末盧   水行 一[千余里]
末盧伊都  陸行 無[千余里](五[百余里])*切り捨て
末盧伊都  陸行 二[千余里]    差分であり、自明
 誤解を招くので、本項を改訂します。
部分行程計   十二[千余里] 全行程     十二[千余里] 

 陳寿の理路に従い時代錯誤の現代的作表でなく縦書表記したいのですが、ブログで縦書表示は大変困難です。五百余里は島巡り共々捨てます。

 部分計十[千余里]と全行程十二[千余里]の差分二[千余里]は、[千余里]単位の一桁概数の計算で生じたものなので、数学的に無視可能です。特に、「水行」は、測量不能、かつ、無意味な実際の道里でなく、所用日数を当てはめた「見なし」里数なので、辻褄合わせは不合理です。
 訂正 正しくは、差分二[千余里]は、初期段階で、末羅国~伊都国間の道里としたものであり、水行一[千余里]同様、実際の道里でなく、概念を示したものなのでした。

 陳寿の表示は、後漢献帝建安年間に、公孫氏がつけた全行程万二千余里の公式道里を熟慮案分した結果の概算差分を消す策がなかったことによります。率直に案分したものなのです。衆知の如く、概算計算の加減算で、細部の辻褄が合わないのは、むしろ当然・自明です。

 古田氏は、第一書執筆の途次で、直感・熟慮により差分解消の錯綜した論理を創唱したと見えます。何しろ、時点の氏の学識限界を承けているので、致し方ないのですが、半世紀を経て、通過点に残した瑕瑾が是正されないのは、大変残念です。僭越ながら、後生は、先生である古田氏の学説の不合理な細瑾を是正して、学説基幹を外部からの攻撃から守るべきであり、この点是非とも慎重にご考慮いただきたいのです。


 なお、氏が創唱した「漢江河口部回避の部分的な海上移動」を「水行」の初出用例とする理窟は、「倭人伝」原文が遵守した古典史書語法による真意に反していることが見すごされ、以後、追従者が多く、不合理が拡散されているのですが、本件の論議では、別儀として極力直接言及するのを避けているのです。これまた、深くて大きい傍路なのです。

 古賀氏曰わく「野田説を『邪馬壹国の歴史学』(…2016年)に収録し、後世の研究者の判断に委ね…ました。」は、傍路と見えます。「魏使の最終目的地を侏儒国」なる見解の提示は[事実]でしょうが、未検証の思いつきと見て、検証し採否を示すのが、後生の重大な務めと感じます。ご一考ください。

 懸案の換言、蒸し返しになりそうですが、正統史官が、巻末の蛮夷伝で姑息きわまりない辻褄合わせを弄すると想定するのは、不合理です。

 世にはびこる時代錯誤のほんの一例ですが、本件討議の圏外から提起の野田氏論理は、原文にない算用数字多桁表示濫用で、三世紀史官に不可解きわまりないものです。3000余里の1里単位非「概数」と[千余里]単位、「四」引く「一」の「三」の単位不揃いにお気づきでしょうか。なお、野田氏論考は、既に参照論文で確認して、当ブログでは、難点から成立しがたいと断じました。古賀氏が何故、明白な議論を先送りにしたのか、不可解です。
 以下、ますます本件の議論の傍路に入り付随論を無用に拡散させ、「倭人伝」の末梢を論じて、貴重な連載記事の進路を崩しているので、無用と断じます。傍路から本道への復帰を切望する次第です。

*用語談議
 ついでながら、用語誤解により論理階梯が乱れているのを、敢えて指摘します。

  1. 「参問倭地」は「倭地」を訪れることです。「倭人伝」では、殊更定義した上で、古典史書で前例のない「水行」、「陸行」を予告の上で導入し、狗邪韓国から末羅国まで渡船で渡り継ぐのを「水行」によって州島を渡り継ぐと概括し、区間内の陸上移動は述べず、末羅国で上陸した後「倭人伝」で初めての「陸行」と述べています。不記載事項援用は、当時の高貴な読者の怒りを買います。
  2. 「周旋」は、差分論議を避けて狗邪韓国-倭間の直線行程を復唱したものであり、直前に示された内容なので容易想到されるので、語義解釈は、野田氏の解釈と大きく異なります。(同時代用例に不足はなく、袁宏「後漢紀」、裴松之補注にみられるので、むしろ、当時の洛陽知識人の常識と見えます)
  3. [方...里]は、「道里」ではなく面積表示であり、中国古代史書の書法にならい、混同されないように単位表記を変えているので明らかなであり、取りあえず、道里論議から除外すべきです。簡明であるべき議論を、拡大、混乱させないように、最低限の確認にとどめるものです。

    ご一考いただけるまで提言しますので、御不快でも御容赦いただきたい。

                                    以上

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