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2025年4月25日 (金)

新・私の本棚 越智 正昭 「最終結論 邪馬台国は阿波だった」

 リベラル新書 サイエンスで読み解く古代史ミステリー 2024/12/25
私の見方 ★★☆☆☆ 文献逸脱 「地政学」で奈落落ち 2025/04/18

◯総評
 越智さんの意欲作であるが、史料参照無しのべたべた文で、ツッコミどころ満載で「蛇足」の鉱物資源論の推測羅列の相手をしている余裕はない。肝心の比定論に通じないのは残念である。それにしても、第6章 地政学的見地からの考察は、不出来な俗説の安易な追従で、どんと地に落ちている。

*俗説に足を取られた行程臆測
 どこからかすめ取ったのか、伊都、奴、不弥、投馬を経て「邪馬壹国」とは、不出来な「水物」俗説である。三崎半島速吸瀬戸を抜け、豊予海峡東岸行きは、古田氏著書などにもある出がらしで、根拠不明では感心しない。
 行程記事で大事なのは、国主居処だけであり、投馬は幡多郡となるようである。遺跡遺物が豊富なら、ここは、むしろ邪馬壹国かと見える。
 以下、氏は、最終目的地邪馬壹国を、南予投馬から四十日とするが、既に伊都から一ヵ月弱程度かけているから、郡想定外、現代人の理解外である。

 氏は、四国山地南側に東西陸路を見るが、長丁場の水行の後に長途山行で、以下、氏の比定する阿波「邪馬壹国」は殆ど近畿圏よりとなり、何故、女王之居処としたのか不可解である。ここから伊都遠隔統御は、不可能である。

*余談山積 陳寿の真意を見失ったこだわり
 氏は地学地方志蘊蓄を傾けるが、臆測による信頼性稀釈化は、世の常である。それなしに正当化できないのでは、明快を旨とした「倭人伝」の真意を見失っている。
 氏の「倭人伝」解釈は、中国側では行程長途で錯綜して難航必至と見え、いかに先帝の遺詔でも守れない重大な状況証拠である。後年、帯方郡軍官張政は、百人の郡兵を阿波まで率いたのだろうか。狗奴はどこか。

*再出発の提言
 随分ご無理かとは思うが、構想を白紙に還して、郡から狗邪まで陸路を一路七千里、三度の水行三千里を経て、末羅から陸上五百里で伊都に到着して完結、後は、南郊の邪馬壹国から女王にお出ましいただいて授受完了という、シンプルで美しい行程なら難所はないので気持ちよく発送できる。と言うと、行程が東方に出ないので、しきりに解釈を混乱させる近畿論の動機不純を見ぬいていただきたいものである。いや、これは、氏に掠(かす)るが、当方見解は、余傍の投馬に干渉せずどこにでも持って行けるのである。
 それでは、阿波説が成立しないが、と言って、御自分の都合で、大事な文献考証をねじ曲げるのは、よくある手口とは言え、所詮「窮鼠猫を噛む」ブラック解釈であり、苦しまぎれの「倭人伝改竄」は感心しない。

*宇摩邪馬臺国説 文献との折り合い重視の余談
 ちなみに、当方案は、女王は水郷西条市付近の投馬国主の長女で生涯不婚の巫女であり、現四国中央の邪馬氏神一の宮にいたものが、伊都王の娘であった母の実家の招請で、15歳の年に筑紫に移動し、『投馬と伊都に共立されて、伊都南郊の新設「邪馬壹国」に居処を定めた』との異論である。女王は伊都王の一女子(外孫)で、投馬の娘でもあり、妥協が成立したとの珍しい意見である。笵曄「後漢書」東夷伝「倭条」は、女王以前の邪馬台国が遠方にあったとの幻を書いたとの意見であり、「倭人伝」時点では女王は筑紫という解決策である。
 解釈転換は、二、三あるが、氏の大捻転より美しいと思う。

 因みに、海産に富み、太古、大三島(伊豫三嶋)に先立つ大海(東西瀬戸の内なる燧灘)の中心、宇摩・三島に女王生家を誘致したのは愛郷心からである。

                               以上

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