新・私の本棚 安本 美典 「卑弥呼の墓はすでに発掘されている!?」 1/2
●福岡県平原王墓に注目せよ● 季刊「邪馬台国」第129号 梓書院 2016年5月
私の見方 ★★★★☆ 広汎堅実な老舗の見識 細瑾確認 2025/04/11, 05/02
◯はじめに
本稿は、「邪馬台国全国大会in福岡」特集号の基幹記事であり、卑弥呼の墓の候補である平原王墓論の講義録の中心部に対する論議です。
◯クリアしなければならない諸問題
平たく言うと、以下の4「問題」(Question)に対して、悉く解答(Answer)を提出して、総合的に審査し、適否を判定すべきとの趣旨と思われます。古代史学に確固たる令名を有する安本氏の意見を拝聴するもので、野次馬の気まぐれではありません。
本件は、平原王墓審査であるが、当然、全候補への「問題」である。当ブログの好みで、10文字程度の小見出しとしています。お目汚しまで。
1 造営年代考証 2 径百歩の検証 3 「徇葬」百余人の検証 4 位置比定の検証
安本氏の論議の原点は陳寿「三国志」魏志「倭人伝」であり、氏は、「邪馬台国」とし、朝倉比定を持論としていることを、承知しておく必要があります。誤解されると困るのですが、べつに、当方の愚考に承服せよと言っているのではないのです。念のため。
1.造営年代考証
安本氏は、「倭人伝」にある「卑弥呼」の死は、西暦(CE)表示で、247ないし248との判断であり、当方は、これに異を唱えるものではありません。
安本氏は、考古学権威森浩一氏の見解として、『遺跡考古の見地から、特定「古墳」の造営年代の考証では、古墳自体と出土遺物には、年代を確定する文字資料が同時に出土していない以上、同一地域の他の古墳であれば、相互の関連から、造営問題を考証することになるが、年代の特定では、ある程度の「誤差」、許容範囲を伴うべきである』との主旨紹介であり、記事中の長文引用は、安本氏が遵守される「文脈」重視の堅持とみえます。
安本氏は、考古学考証により、平原王墓の造営年代は、「倭人伝」から想到される「卑弥呼の歿年」と重なる可能性は十分にあるので、本項によって、欠格とされないという判断と見えます。
2.径百歩の検証
安本氏は、本項では、考古学的な発掘成果はもとより、国内史料「延喜式」に記載された天皇墓陵の「町」単位「矩形域」記録を複数考証しています。
*第一推定
「第一推定」では、「倭人伝」の「径百歩」は径150㍍程度の領域と見ています。この点については、異議を保留し、論議は後述します。
*第二推定
「第二推定」では、「径百歩」を墳墓の外形でなく墓域を示すとしています。
文武天皇夫人の陵墓の天皇陵と趣(おもむき)の異なった表記紹介ですが、お話はそこまでです。
安本氏は、卑弥呼の「親魏倭王」号について、漢代以来の中国制度、漢制の「王」とされているように見えますが、早計と思われます。蕃夷「王」が、漢制「王」と同等でないのは確かです。ただし卑弥呼「冢」が、漢制によると見ること自体は可能とされているように見えます。
安本氏は、慎重に、「倭人伝」先行記事の大人「冢」が、単に「封土」であり、高塚などで無いとされています。当座の議論の収束として妥当です。
安本氏は、平原王墓は、卑弥呼の「冢」を外れていないという結論です。
*「第一推定」への異議
安本氏は、「冢」の漢制にもとづくと 判定される「歩」表記に対して、後年の「延喜式」が、漢制と全く別体系の「町」表記である点を、特段考慮されていないと見えます。
安本氏は、「倭人伝」から数世紀後世と見られる国内史書に関して、広く、堅実に渉猟された上の提言であり、「延喜式」論議は謹んで拝聴します。
未完
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