新・私の本棚 伊藤 雅文 邪馬台国は熊本にあった! 1/7 2025
扶桑社新書 219 2016年9月刊
私の見立て ★★★★☆ 力作 ただし空転/捻転散乱 2019/03/17 一部改訂 2021/03/30 2024/02/09 2025/06/15
*加筆再掲の弁
最近、Amazon.com由来のロボットが大量に来訪して、当ブログの記事をランダムに読み囓っているので、旧ログの揚げ足を取られないように、折に触れ加筆再掲していることをお断りします。
*はじめに
最初にお断りしておきますが、当ブログ筆者、以下当方は、伊藤氏の当著作は、基本的に、論理的で誠実なものと見ています。
ただし、氏が重用する倭人伝「改ざん論」は、熱意の空転であり、云っていることは無意味(ナンセンス)と考えます。ここで無茶を言ったため、折角の好著がドブに落ちています。
*誠実な論考
誠実は、まずは、論者としての誠実さであって、例えば、倭人伝を解くのに、まず、紹凞本(?)のテキストを元にPDF文書、当然、漢字縦書き、を作成し、その労作全体は巻末に収録しつつ、本書全体で、当該文書の一部を取り出して表示した上で論じていることです。
当方も同様の試みに取り組んだことはありますが、何しろ、当方の主媒体であるブログは、縦書き表示が大変難しいのです。縦書き表示自体は、設定可能ですが、閲覧操作が、大変わかりにくくなるので断念しています。というものの、縦書き史料のPDF画面コピーを挟んで議論するのも、一段と難しいので足が遠のいているのです。
この点、伊藤氏に敬服するものです。
*とんだとばっちり~余談
また、使用図版類の原典、出典を明らかにし、これを自身の責任で編集したことを都度書き添えていることは、当然ながら中々できないことです。
ここで殊更言い立てるのは、当方の見るところ、古代史分野の他の著者には、現代の国土地理院地図データの個人的利用が許容されているのをよいことに、カシミールなどのアプリでデータを図示したと見られる地図を千年以上前の地図と見せる悪用例が、少なからず出回っているからです。
*世上諸悪批判の弁
ここで、氏の好著の書評で、世上の諸悪を非難するのは、氏にとってご迷惑でしょうが、殊更「悪用例」の書評を掲示するのは、氏の好著を引き立たせる効果があるとみたので、ここに開陳するものです。
一番甚だしいのは、一時、毎日新聞夕刊の「歴史の鍵穴」とて、掲載されていたし謎解きコラムであす。
毎日新聞社専門編集委員なる金看板の元に、例えば、奈良県の山中から愛媛県松山市の海岸まで山並と海を越えて、真一文字に直線の見通しが通っているような高精細の「地図」を載せて、自説の裏付けとしていたものでした。何しろ、毎日新聞専門編集委員なる権威のある肩書きの人物が、堂々と全国紙の紙面を飾っていたので、当ブログでは、毎回地図悪用を見る度に非難したのですが、どうも、ご当人は無視したようで、未だに、いらだちが燻ってるのです。
もちろん、この架空地図捏造は、当該非専門家がゼロから創始したのではなく、新書歴史本などに源流があるのですが、見るからにインチキ本なので、批判はそれほどでもなかったのです。
そのような現代地図データの「悪用」は、国土地理院、カシミールのサイトの利用条件に書かれていない筈の保証外の流用であり、よって「不法」(犯罪)なのです。誰にも、今日の地図データを、一千年前、二千年前に適用できないのも明白です。
と言うような、ご自身には、何の責任もない地図データ悪用論のとばっちりは余計なお世話でしょうが、反面教師を出して、氏の論考を賞賛しているので了解いただきたい。
*「倭人伝」復権の時
別に、氏の責任ではないのですが、「倭人伝」の位置付けを俗信に頼るのは感心しません。
本書でもあるように、「倭人伝」は、魏志第三十巻の巻物から抜き書きした時代以来、独立史料として扱われていて、宋朝の叡知を反映した紹凞本は「倭人伝」と見出しを立て前段と分離しています。
ぼちぼち「倭人条」などと格下げするのはやめるべき時が来ているように思います。
未完